2010年4月24日土曜日

隣のターミネーター

    隣のターミネーター
           ようこ( ̄ー ̄)v

 世の中には居るんですね、ターミネーター
が。
 通勤電車でのこと、いつものように電車の
ドア付近のシートに座りました。
 私は、通勤電車の中で読書をするのが、朝
の小さな楽しみの一つです。
 シートに座ると、私は早速、鞄の中から文
庫本を取り出し、読書に集中しました。
 すると、隣の男が、ごそごそと鞄の中から
携帯を取り出し、見ています。
 私の横に座っているその男は、年の頃は二
十代前半で、服装は私服の学生風で、メガネ
をしている小太りの、おたく風男です。
 此処までは普通の光景なんですが、隣の男
は携帯を見ながら、人差し指を立て、それを
おもむろに自分の鼻の中へ持っていきました。
(きゃっ!やだ!?汚い!何してんの?)
 私は見て見ぬふりをしながら、文庫本から
目をそらし、男を見てみると、男は公衆の面
前で平然と人差し指を鼻の中へ入れ、ぐりん
ぐりんと回しています。
(やだー。早く止めてよー)
 私は、その男の隣に座っていて、気が気で
はありません。
 私の願いも空しく、男は携帯を見ながら、
指のぐりんぐりんをいっこうに止めようとし
ません。
 鼻から抜いた手の親指と人差し指で、物を
丸め、弾丸を作り、それをシートの下に落と
しています。
(こいつ。きっと、異星人だわ。ロボットか
も知れない。そうだ!ターミネーターだわ)
 私は隣の男をターミネーターと決め付けま
した。
 ターミネーターは携帯を見ながら、その作
業を延々と続けています。ターミネーターが
放つ弾丸に当たったら、私は死んでしまいま
す。
 私は心の中で、弾丸が私に当たりませんよ
うにと、祈りながら本を読んでいます。
「まもなく、○○駅。○○駅」車内の放送が
あると、ターミネーターは先に電車を降りて
いきました。男はシートを立ち上がる時に、
「I’ll be back.」と言ったかどうかは定かではあり
ません。私は、内心ほっとしました。朝から、
気分が悪いものを見てしまいました。
 その時は、後日、再びターミネーターにあ
いまみえるとは夢想だにしませんでした。

 数日して、ターミネーターのことはすっか
り忘れていました。ところが、私は再び、あ
のターミネーターに会ってしまったのです。
 私は電車の入り口付近の席に座ろうとして
いると、突然、おじさんが、立ち上がって、
空いている向かいの席に座り直しました。
(?なんで、わざわざ、向かいの席に座り直
すんだろう?)と思いながら、おじさんが座
っていた、その空いた席に座ると、隣の男が
鼻をほじっているではありませんか!?
そうです、隣の男は、あのターミネーター
だったのです。
(わー!?最悪。隣の男は、ターミネーターだ
わ!)
 他に空いている席も無いので私は仕方なく、
その席に座っていました。
 ターミネーターの席の前のつり革に掴まっ
て、立つ人は居ません。人々はターミネータ
ーが放つ弾丸を避けているのでしょう。
 前回と同じ駅でターミネーターは降りてい
きました。
 これに懲りた私は、あの電車の何輌目のド
ア横のあの席はターミネーターの指定席だと
解ったので、二度と近寄らないようにしてい
ます。

             おわり。