2011年7月31日日曜日

鴨太郎の一日

『鴨太郎の一日』

ようこ( ̄ー ̄)v


 俺、カルガモの鴨太郎。
俺の居住地は茨城県の千波湖の畔にある公
園なんだ。
 毎日、沢山の人間が来るんだよ。 
千波湖の周りは、人間達が走り回ってるん
だ。なんでも、ジョギングって言うらしいけ
どね。人間は千波湖の周りを、なんで走って
るのか、鴨の俺にはわかんない。
 人間たちが走りまわってる、その外側は人
間が操縦する乗り物が、走ってるんだ。
 俺の居る公園は、その千波湖の周りを走る
道路を隔てた向かい側にあるのさ。

 俺はこの公園が気に入ってるんだ。池の水
は綺麗だし、芝生には俺の好物の虫や草が生
えてるしね。
 
 一方、千波湖の方はどうかって言うと、水
質は茶色でね。お世辞にも綺麗って言えない
んだな、これが。
 だけど、時には広い千波湖で、伸び伸びと
泳ぎたい時も有るってもんだろ。


 それで、千波湖へ行く時もあるんだけどさ。
これが、危ないんだ。
 歩いて、道路を横断しようものなら、いつ、
人間の操縦する乗り物の餌食にされるか分っ
たもんじゃない。先日も仲間の鴨次郎が、歩
いて道路を渡ろうとしたら、そいつに踏み潰
されそうになったって言うんだ。危機一髪、
災難は免れたらしいけどね。
 そんな訳で、千波湖へ渡る時は、空を飛んで、
一気に道路を飛び越えるんだ。

 
 ま、こんな話はいいとして。
 ここ数日、大雨が続いてね。嫌な天気だね。
今日は、久々に晴れて、日差しも強くてね。
暑かった。こんな日は池に入って、のんび
りとしているのが一番。
 と、そこへ人間が近づいて来た。
ま、いつもの人間だよ。人間の小さいのは
苦手でね。俺たちを追い回す事があるのさ。
 だけど、人間の大きいのは大丈夫さ。
 池から上がって、芝生の上に座っていたん
だ。すると、大きい人間が近づいて来てね。
何か、手に持ってる。俺に何か食べ物をくれ
るのか?いや、そうじゃないらしい。そいつ
を手にかざして、俺に向けてる。一メートル
手前まで、近づいて来た。



 俺は人間を無視して、芝生の上に座ってい
ると、更に少しづつ近づいてくる。
もう、50センチ手前くらいまで、近づい
て来た。手に持った物を俺にかざしてる。
 (おいおい。そんなに俺に近づくんじゃねー
よ。食べ物をくれるんなら別だけど)
 人間が、うざいので、俺は、その場を退散
した。
 (ちぇっ。せっかく寛いでいたのに、人間に
邪魔された。もう、俺を追ってくるなよ)
 俺は、その場を離れた。 あれ?人間は
まだ、俺を追ってくるよ。勘弁してくれよ。
 今度来るときは、何か食べ物を持って来いよ。
俺は歩く速度を早めて人間から遠ざかった。


                おわり。

2011年7月23日土曜日

『手鏡』

    『手鏡』

           ようこ( ̄ー ̄)v

 近所にリサイクルショップが開店しました。
今日は、学校の帰りに、お友達と、そのお店
に寄ってみることにしました。
 「ねえねえ。これ見て、かわいいでしょ」
雑貨コーナーを見ていた、お友達の美子が、
熊のプーさんを型どった貯金箱を手に取って、
私に見せます。「うん。かわいいね」と相槌
を打ちながら近くのコーナーを見ると、アン
ティーク調の手鏡が目に入りました。
 その手鏡の背面にはバラを型どった模様が
描かれていました。私は妙に、その手鏡に惹
かれました。手に取って、しげしげと見つめ
ていると、美子が言いました。
「何?その古臭い手鏡は?」
「うん。なんか、妙に惹かれるのよね」する
と美子は気が知れないといった様子で、「え
えー?何処がー?!」と言いながら、他のコー
ナーへ行ってしまいました。
 手鏡は、お小遣いで買える値段でした。私
は、この手鏡を購入することにしました。
 店を出ると、美子が、「ようこ、あの手鏡
買ったの?」と、呆れ顔で、私に訪ねました。
 「うん。素敵でしょ」手鏡を包から出して、
美子に見せました。美子は手鏡を手に取ると、
「これがねー?」と言いながら、私に返しま
した。
 友達と分かれ、家に帰り、部屋で手鏡を出
して、見ました。見れば見るほど、素敵な手
鏡に思えてきました。
 (もしかしたら、この手鏡は魔法の鏡か
も?)と不意に思えてきました。鏡の中には、
いつもの、代わり映えのしない、私の顔が写
っています。(明日の運勢を占ってみようか
しら?)
「鏡よ鏡。明日の運勢はどうかしら?何かい
い事が起こる?」と、鏡に向かって、言って
みました。
 一瞬、鏡が曇って、私の顔が悲しそう顔に
見えました。(あれ?こんな顔したっけ?)       
パチクリと瞬きをして、鏡を見ると、普段ど
おりの私の顔です。
 「ご飯ですよー」と、お母さんの声が部屋
の外から聞こえてきます。妙に違和感を覚え
つつ、手鏡を置いて、部屋を出ると、もう、
その事は忘れていました。
 翌日、晩ご飯の食卓で、お父さんが、「今
日、会社で先日の健康診断の結果を渡されて
ね。どうも、胃に陰りが写っているようなん
だ。再検査に成ってしまったよ。ガンでなけ
れば良いが」と、お母さんに言いました。
 お母さんも私も、とても心配になり、その
日の晩ご飯は、少しも美味しくありませんで
した。
 食事を終えて、部屋に戻ると、あの手鏡を
取り出して、聴いてみました。
 「鏡よ鏡。お父さんのお腹は大丈夫な
の?」すると、また、鏡は一瞬曇り、私の顔
は笑顔になっていました。
 (あれ?こんな時に笑顔なんて出来ない
よ? この鏡、おかしい?!私、笑った憶えな
いわ)と思いながら、良く鏡を見てみると、
怪訝そうな顔をした、私が写っています。
 数日して、お父さんの精密検査の結果が判
りました。良性のポリープだったそうで、胃
カメラで、その場で切除したそうです。
 お父さんが、なんとも無くて良かった。
 もしかして、あの手鏡は数日後の事が予測
できる魔法の鏡かも?
 今度は、もっと大事な事を占ってみよう。
 数日後にバレンタインが控えています。吹
奏楽部の部活動で、いつもお世話になってい
る、憧れの山本先輩にチョコを渡そうか、止
めようか、ここ数日、思い悩んでいます。
 手鏡に占って貰いましょう。
 「鏡よ鏡。山本先輩にチョコを渡しても、
大丈夫?」
 すると、また、鏡は一瞬曇って、私の泣い
ている顔が写りました。
 「やだ!何これ?」私は気味が悪くなって、
鏡をベッドに頬り投げてしまいました。
 泣いている顔が写ったという事は、私は山
本先輩にフラれるんだわ。やっぱり、山本先
輩にチョコを渡すのは止めようと思いました。
 
 今日は、バレンタインデー。
 そして、授業も終わり、部活の時間になり
ました。
 先日の鏡の結果が怖くて、山本先輩にチョ
コを渡そうか、止めようか、躊躇していまし
た。そうこうして居ると、山本先輩が、私に
声を掛けてきました。
 「ようこちゃん、ちょっと、いいかな?部
活が終わったら、調理室に来てくれない?渡
したい物があるんだ」と、照れくさそうに、
後頭部を掻いています。「はい。判りまし
た」と返事はしたけど、私の心臓はドクンド
クンと脈を打って、破れんばかりです。
 部活が終わって、調理室に行ってみると、
山本先輩が待っていました。
 「はい。これ」と言って、先輩がリボンの
付いた赤い包を私に差し出しました。
 (もしかして、チョコレート?逆チョ
コ?)包を受け取った私は、嬉しさのあまり、
泣いてしまいました。
 山本先輩は、そんな私を見て、慌てて、
「ようこちゃん、どうしたの?泣かないで
よ」と、心配そうに、気お使ってくれます。
 「先輩、ありがとうございます。私、嬉し
くて……」その日は、山本先輩と一緒に、家
族の事とか、部活の事とか、いろんな事を話
しながら、帰りました。
 先日占った時の、あの、鏡に写っていた私
の泣き顔は、嬉し泣きの顔だったのでした。
 それからというもの、私は肌身離さず、手
鏡を持ち、何をするにも、まず、手鏡で占っ
てから、行動するように成りました。
 ベッドから起き上がると、朝一番で、いつ
もの様に手鏡で占ってみようと、鏡をかざし
てみました。「鏡よ鏡。……」
 今日は、鏡が反応しません。
(あれ?どうしたのかしら?鏡の力が無くな
ったの?)何時も何時も鏡の力に頼っていた
為、とても不安になりました。授業中も勉強
に身が入りません。鏡は家に置いて来ました。
 と、そこへ、大地震が襲って来ました。初
めは、いつもの地震かと思っていたら、だん
だん大きくなり、今までに経験した事の無い
揺れが、教室を襲いました。机の下に身を隠
し、揺れが収まるのを待ちました。とても長
い間揺れていました。揺れが少し収まると、
私達は校庭に避難しました。
 間もなく、全校生徒は帰宅するように指示
が出ました。
 家に帰ってみると、お母さんが、家の片付
けをしていました。家の中は物が散乱し、惨
憺たる有様でした。でも、お母さんが無事で
良かった。
 二階の自分の部屋に入ってみると、やはり、
物が棚から落ちて、散乱していました。あの
手鏡も落下して、鏡が割れていました。
 (そうか。これが原因で、鏡は反応しなか
ったんだわ)そう、納得すると、何かが、心
の中で吹っ切れたような気がしました。
 後から、良く考えてみると、鏡が占ってく
れたのでは無く、総ては自分自身の心の弱さ
から来た、思い込みなのだと思えて来ました。
 震災前と後では、良かれ、悪しかれ、人々
の心は確実に変わりました。
 これからは、強く生きなければと、思うこ
の頃です。

             おわり。

2011年7月22日金曜日

『田舎のバス』

    『田舎のバス』

           ようこ( ̄ー ̄)v

 田舎のバス。なんとなく、風情があって、
楽しそうな雰囲気がしますよね。
 子供の頃は塾通いで、よくバスを利用しま
した。ある雨の日の夜、バス停でいつものよ
うにバスを待っていました。
 バスに乗ると、乗客は誰もいません。
 そう。乗客は私一人なのです。バスの広い
空間にポツンと乗客は私一人。田舎の為、道
路の外には街頭などありません。全くの闇で
す。
 途中、バスの停留所には誰もいません。
 バスは私一人を乗せて、闇の中を只ひたす
ら疾走します。
 バスの中には運転手さんと乗客の私一人の
み。運転手さんは一言も喋りません。黙々と
運転します。
 窓の外の景色は漆黒の闇。
 ふと、このバスは、このまま、私の与り知
らない遠い所へ行ってしまうのではないかと
いう思いに囚われます。
 バスの走る軋み音と、雨の音。静まり返っ
た車内。このまま、不気味な時間が永遠に続
くのかという思いに囚われます。
 (もしかしたら、このバスは霊界へ通じる
霊柩車?このまま、私は霊界へ連れ去られて
しまうの?)
 相変わらず、運転手さんは一言も喋りませ
ん。バスはしばらく、私一人を乗せて走って
います。
 私一人を乗せた状態は、時間にして、数十
分の事だったのかも知れません。しかし、私
には永遠の時間に思われました。
 しばらく走っていると、ようやく、バス停
留所に待っている人が現れました。バスは停
車し、お客さんを載せました。
 (良かった、このバスは霊界バスじゃなか
ったわ)
 やっと、安心しました。
 
              おわり

2011年7月18日月曜日

『鴨の親子』

『鴨の親子』

            ようこ( ̄ー ̄)v

 ここは水の都。茨城県は水戸にある千波湖
の畔にある公園です。
 私達、鴨族はこの公園を寝城にしています。
お隣りには、白鳥族もいます。その他、湖畔
には、カモメ族など、いろいろな水鳥がいま
す。
 今日は天気も良いので、生まれて間もない、
子供達3匹を連れて公園の川に沿って、歩い
てみますかね。
「母ちゃん、お腹すいた」まだ、歩いて5分
と経たないのに、年長の鴨一が不貞腐れた様
子で言いました。
「あたしも」「あたしも、お腹すいた」と子
供達は言いながら、歩こうとしません。
 湖畔の畔にある餌場に行けば、ご飯は食べ
られます。しかし、まだ、ご飯の時間ではあ
りません。
「我慢しなさい。まだ、お昼には成りません
よ」
「やだ。お腹すいたー」子供達は駄々をこね
て歩こうとしません。
 ここで、甘やかしては、子供達のためには
なりません。
「だめです。さー、歩きなさい」
 子供たちは一歩も歩きません。
 そうこうしていると、向こうの方から、人
間が近づいて来ました。
(丁度良かった。人間が何か、食べ物をくれ
るかも知れないわ)
 お母さん鴨は期待して待っていると、人間
は私達の一メートル手前で止まりました。
しばらく待ってみたけど、人間は食べ物を
くれる様子がありません。
(なんだ。見物か。あたし達は見世物じゃな
いのよ)
「さ。行くわよ」私は子供たちにそう言うと、
細く流れている川に、入りました。私に続い
て、3匹の小鴨達も、ぞろぞろと川に入りま
した。
 人間はずっと、私達を見ています。
(嫌ねー)私は、川をスイスイと泳ぎ、川の
橋の下に隠れました。続いて、小鴨達も私に
続いて、橋の下に隠れました。
 まだ、人間は私達を見ています。しばらく、
橋の袂に隠れていると、人間は諦めたのか、
向こうへ行ってしまいました。
「食べ物をくれる良い人間もいるけど、私達
に危害を加える悪い人間もいるから、人間を
見たら、気をつけるのですよ」まだ、生まれ
て間もない子供たちに、人間の事を教えまし
た。「はーい」小鴨達は元気良く返事をしま
した。 
 さてと、お昼の時間になったし、餌場に行
ってご飯にしましょう。

                おわり。