2010年4月24日土曜日

隣のターミネーター

    隣のターミネーター
           ようこ( ̄ー ̄)v

 世の中には居るんですね、ターミネーター
が。
 通勤電車でのこと、いつものように電車の
ドア付近のシートに座りました。
 私は、通勤電車の中で読書をするのが、朝
の小さな楽しみの一つです。
 シートに座ると、私は早速、鞄の中から文
庫本を取り出し、読書に集中しました。
 すると、隣の男が、ごそごそと鞄の中から
携帯を取り出し、見ています。
 私の横に座っているその男は、年の頃は二
十代前半で、服装は私服の学生風で、メガネ
をしている小太りの、おたく風男です。
 此処までは普通の光景なんですが、隣の男
は携帯を見ながら、人差し指を立て、それを
おもむろに自分の鼻の中へ持っていきました。
(きゃっ!やだ!?汚い!何してんの?)
 私は見て見ぬふりをしながら、文庫本から
目をそらし、男を見てみると、男は公衆の面
前で平然と人差し指を鼻の中へ入れ、ぐりん
ぐりんと回しています。
(やだー。早く止めてよー)
 私は、その男の隣に座っていて、気が気で
はありません。
 私の願いも空しく、男は携帯を見ながら、
指のぐりんぐりんをいっこうに止めようとし
ません。
 鼻から抜いた手の親指と人差し指で、物を
丸め、弾丸を作り、それをシートの下に落と
しています。
(こいつ。きっと、異星人だわ。ロボットか
も知れない。そうだ!ターミネーターだわ)
 私は隣の男をターミネーターと決め付けま
した。
 ターミネーターは携帯を見ながら、その作
業を延々と続けています。ターミネーターが
放つ弾丸に当たったら、私は死んでしまいま
す。
 私は心の中で、弾丸が私に当たりませんよ
うにと、祈りながら本を読んでいます。
「まもなく、○○駅。○○駅」車内の放送が
あると、ターミネーターは先に電車を降りて
いきました。男はシートを立ち上がる時に、
「I’ll be back.」と言ったかどうかは定かではあり
ません。私は、内心ほっとしました。朝から、
気分が悪いものを見てしまいました。
 その時は、後日、再びターミネーターにあ
いまみえるとは夢想だにしませんでした。

 数日して、ターミネーターのことはすっか
り忘れていました。ところが、私は再び、あ
のターミネーターに会ってしまったのです。
 私は電車の入り口付近の席に座ろうとして
いると、突然、おじさんが、立ち上がって、
空いている向かいの席に座り直しました。
(?なんで、わざわざ、向かいの席に座り直
すんだろう?)と思いながら、おじさんが座
っていた、その空いた席に座ると、隣の男が
鼻をほじっているではありませんか!?
そうです、隣の男は、あのターミネーター
だったのです。
(わー!?最悪。隣の男は、ターミネーターだ
わ!)
 他に空いている席も無いので私は仕方なく、
その席に座っていました。
 ターミネーターの席の前のつり革に掴まっ
て、立つ人は居ません。人々はターミネータ
ーが放つ弾丸を避けているのでしょう。
 前回と同じ駅でターミネーターは降りてい
きました。
 これに懲りた私は、あの電車の何輌目のド
ア横のあの席はターミネーターの指定席だと
解ったので、二度と近寄らないようにしてい
ます。

             おわり。

2009年9月23日水曜日

霊感修学旅行(8)最終回

 
 床几に座っていた鳥居元忠が、ゆっくりと
立ち上がりました。
「皆の者。親方様の会津討伐の後方を三成に
攻められてはならじと、ここまで防いできた
が、もはやこれ迄。甲賀衆の裏切りにより、
廓に火が放たれた。
 三成軍は、内堀のすぐそこ迄来ている。
 もはや、城が落ちるのは、ときの問題じゃ。
 城に残った者、僅か、三百余名。生き恥を
晒すより、死して、親方様の御報恩に報いよ
うぞ。
 あの笑止千万な治部少輔めに、三河武士の
意地を見せてやろうぞ!」
 元忠は右手の拳を挙げて、えいえいおうっ
と気勢を上げました。
 それに呼応するように臣下の者たちも立ち
上がり、拳を挙げて気勢を放っています。
 茫然自失で、その様子を私達は見ていまし
た。すると、私達をひっ捕らえてきた、脇の
侍がすっと、腰の刀を抜きました。
「おぬし達も観念せい!このわしが成仏させ
てやるわ!」そういうと、私達、四人めがけ
て切りつけて来ました。この時、夏子は侍に
向けて、カメラのフラッシュを焚きました。
「わぁ!」切りつけて来た侍と、背後の侍達
が怯みました。
「今よ!逃げるのよ!」夏子は脱兎のごとく、
廊下を走り出しました。残る私達も夏子の後
に続いて、走りました。
「おのれ!面妖な!待て!」武士達が後方で
騒いでいます。
 こう見えても、私達四人は陸上部なのです。
足には自信があります。
 重い鎧甲冑を着ている侍達が、私達に追い
ついてこれるはずもありません。
 走って本丸を出ると、間もなく外壁が見え
て来ました。
 外壁の周りと入場門の周りは三成軍しかい
ません。
 私達は、この混乱の中、身を隠すようにし
て、門の出口まで来ました。
「どうしよう。あそこに人がいっぱい居るよ
う。あそこを通らないと、出られないよ~」
 幸江は泣きそうな顔でみんなを見ています。
「何とかして、ここを脱出するのよ」
 由美子は悔しそうに唇を噛み、何か思案し
ています。
「本丸からやっと、此処まで来たけど、この
先、更に二の丸、三の丸と抜けて行かないと、
ここから出られないわ」夏子が、もう無理、
と言った様子で、うな垂れました。
「ちょっと、待って。私達、外に出ようとし
ているけど、そもそも、私達の元居た場所は、
あの和室よ!和室に戻りましょう。あそこが
時空の穴になっているのよ」
 私はSF小説で読んだ、《時をかける少
年》を思い出しました。
「あそこに、時空の歪みがあるのよ。あの場
所に戻りましょう。元の世界に戻れるかもし
れないわ」
 このままでは、何万といる、三成軍をかわ
して、城の外に出る事は不可能だと解った私
達は、再び、あの和室に戻ることにしました。
 和室に戻ってみると、城内は静まり返って
いました。もう既に、元忠達は自刃してしま
ったのか?間もなく、ここにも、三成軍が押
し寄せてくるはずです。
 和室には誰もいません。私達四人は手を取
り合って、和室に入りました。すると、あの
興聖寺の竜宮城のような門を潜った時の眩暈
のような感覚に、再び襲われました。
 ふと、気づくと、私達四人は興聖寺の門の
所に佇んでいました。
「戻れたわ!」私が言うと、みんな、手に手
を取り合って、喜びました。幸江は泣きなが
ら、良かったね。よかったね。と、みんなに
抱きついています。
 腕時計を見ると、あれから、三時間程経過
しています。
「いけない!早く戻らないと、先生に怒られ
る!」
 急いで、宇治駅まで戻りました。もう、甘
味処に行っている時間も余裕もありません。
 京都駅までの電車の中で、私達は先ほどの
不思議な体験を思い出して、夢遊病患者のよ
うにぼーっと座席に座っていました。
 この時、知らない人が私達を見たら、若年
認知症の集団だと思ったことでしょう。
 なんとか、門限の時間までに間に合いそう
です。京都駅に着いた私達は、宿までの道す
がら、今日あった事は誰にも話さないで置こ
うと言いました。
 こんな話を誰かに話したら、集団ヒステリ
ーだとか、誇大妄想狂だとか思われるのが落
ちです。下手したら、私達四人は精神病院に
入れられてしまいます。そんなのは勘弁です。
 宿に着いた私達は、疲れがどっと出て来て、
何事も無かったように振舞うのがやっとでし
た。
 後は、鳥居元忠の亡霊が、再び私達のもと
へ出て来ない事を、拙に祈るばかりです。


             おわり。

霊感修学旅行(7)

 私達は、和室の外の様子を恐る恐る、見ま
した。
 石田三成軍は内堀のすぐ近くまで来ている
様子です。
「ここは、伏見城の本丸だわ!」こんな事態
なのに、歴史おたくの夏子は目を爛々と輝か
せて喋りだしました。
「伏見城は豊臣秀吉が築いた、巨郭よ。その
守りは堅固で、難攻不落の城なのよ。
 城を守るのは鳥居元忠。その兵力、僅かに
千八百人。対する石田三成軍は総勢四万人よ。
その結果は火を見るより明らかだわ。
 でも、元忠はここを10日以上も持ち支え
たのよ。
 敵は外ばかりではなく、内部にもいたの。
それが、伏見城内にいた甲賀衆よ。
 甲賀衆は外に残して来た妻子を捕らえられ、
内通しなければ、妻子を皆殺しにすると、脅
されたのよ。
 内通した甲賀衆は伏見城内に火事を起こし
たの。
 その為、伏見城の戦いによって、お城はそ
の大半を消失しているわ」
 夏子が一挙に喋ると、みんなは、ふんふん
と頷いているが、それどころじゃない。
「そんなの聴いている場合じゃないわ。私達
の命が危ないのよ。早くここを脱出しなきゃ、
焼け死ぬか、鎧武者に切り殺されるわ!」
「そうね。早く逃げましょう」夏子は現実を、
やっと認識したようです。
 城壁の外の騒がしさに比べて、城内はやけ
に静かでした。
 周りを見回しても、火の手が上がっている
のに、人っ子一人いません。
「これは、きっと、鳥居元忠以下の家臣は大
広間に集まっているに違いないわ」
 夏子は深刻な表情でいいました。
「え?!それじゃー、自殺の為に……」
 私の脳裏に、あの血天井の夥しい血の跡が
蘇えりました。
 とんでも無い場面に遭遇したものです。
 四人とも、一様に膝が、がくがくと震えて
います。
 と、そこへ、どやどやと、三~四人の武者
が私達の方へ駆けて来ました。
「お主達は何者だ!おのれ!裏切り者の甲賀
衆か!?」先頭の男が言いました。
「ち、違います!」私が言っても、その男は
聞く耳を持ちません。目が血走っています。
「この女子共をひっ捕らえよ!大広間に連れ
ていくのだ!」男の言いなりに、私達は大広
間へ連れて行かれました。
 大広間に着いてみると、そこには夥しい人
数の城内の侍達が集まっていました。その数
は、約三百名程。中には女子供も何人かいま
す。
 昨夜見た、総大将の鳥居元忠以下、家臣の
大将達が上座に並んで、甲冑のまま、椅子に
座っています。
(やばい!非常にやばい!これは、今まさに、
自刃しようとする直前の現場だわ!)
 みんなも同じ気持ちか、皆それぞれ、その
目は怯えています。
 
 
             つづく

2009年9月22日火曜日

霊感修学旅行(6)

 朝、目覚めると、私は、布団の中で眠って
いました。
 周りにクラスメートの由美子や、みんなも
寝ています。
(良かった。あれは、夢だったんだ)
 目が醒めて、牢屋の中じゃなかった事に、
心底、安心しました。
 それにしても、妙にリアルな夢でした。
 夜中に起きた時に聞いた、誰かが歩く音は
鎧武者が歩く音と同じでした。昨夜の夢と、
何か関係がありそうです。

 旅館の食堂で、朝食を食べながら、昨夜の
事を由美子や夏子、幸江に話しました。
「昨夜ね。廊下で重い足音がしたんだけど。
あれは、絶対、鎧武者の足音よ。間違いない。
私、あの後、変な夢を見たのよ」
「ようこに起こされて、トイレに付き合った
んだけど。何も聞こえないし、誰もいなかっ
たわよ。ようこ、寝ぼけていたんじゃない
の?」由美子は私をからかうように言いなが
ら、手前のたくあんを、お箸につまむと、ポ
リポリと音をたてて食べています。
「本当だって!あの後、すぐ寝たでしょ。そ
れで、私、変な夢を見たのよ。妙にリアルな
夢だったわ」
「変な夢って、どんな夢?」味噌汁をすすり
ながら、幸江がおっとりした様子で聞きまし
た。
「それがね。私は、和室のある一室にいるの。
鎧甲冑を着た、戦国武将がどやどやと廊下を
走ってくるのよ。その大将が鳥居元忠で、私
は危うく、刀で切られるところだったの。そ
れで、牢屋に入れられちゃったのよ」
 ここまで、一気に言うと、みんなは笑いだ
しました。
「あはは。ようこ。その夢、面白い」
 夏子は可笑しくてしょうがないといった様
子で、テーブルを叩いています。
「笑い事じゃーないのよ。妙にリアルだった
んだから。もしかしたら、私、タイムスリッ
プしたのかも?」
「そんな訳ないじゃん。あはは」夏子は腹の
皮が捩れるーといって、お腹を抱えて笑って
います。
「本当だってばー」私が真面目に言えばいう
程、みんなは笑います。
「もういいよ!信じて貰えなくても!」私が
頬をぷーっと膨らませていうと、みんなの笑
いはやっと止まりました。
「ようこ。思い入れが激しいから、そんな夢
見るんだよ。もっと、気楽に行こうよ」と由
美子は私の横で、肩をポンと叩きました。
「今日さぁ~。興聖寺に行くの、よそうよ。
宇治の甘味処だけ、行こうよ~」
 私がいうと、夏子はとんでもないという様
子で、「だめ!最後のコースなんだから、絶
対、見なくちゃ、だめよ」と、お箸を持った
まま、手を横に振っています。
「どうなっても、知らないから!」私は怒っ
ていうと、みんなは、まじ?という様子で私
を見ました。
「大丈夫よ。何も起きないわよ。最後の日程
なんだから、気楽に行こうよ。ね?」
 由美子が私をなだめると、それ以上、私は
何も言えなくなって、しぶしぶ了承しました。

 朝食を終えた私達四人は、旅館のロビーに
集合すると、今日の日程を確かめました。
 夏子が地図を広げて、興聖寺の場所はここ
よと指し示しました。
 電車で、京都駅から宇治駅まで、三十分程
です。さらに、宇治駅から歩いて、三十分程
の所に興聖寺はあります。コースとしては、
興聖寺に見学に行った後、駅周辺の甘味処に
行く予定です。
「さあ。今日も元気に行ってみよー!」と夏
子は右手の拳を振り上げました。
 私は、何も起きなければ良いがと、気乗り
のしないまま、みんなの後を付いて京都駅ま
で歩いて行きました。

 程なく、宇治駅に着くと、地図を見ながら、
川沿いの道を歩いて、やっとの事で、一行は
興聖寺の入り口の古びた門に着きました。
「夏子、ここ遠いじゃん」幸江はへなへなと
川べりの堤防に寄りかかりました。
「ちょっと、遠いわねえ」夏子も疲れた様子
でいうと、「もう直ぐよ。さぁ。ファイト」
といって、興聖寺の参道を歩いて行きました。
 
 まもなく、竜宮城のような門が見えて来ま
した。そこから、本堂の中に入り、血天井を
見学しました。ここにも、シミのある天井板
に、人間の手の跡や、足の跡が付いています。
 夏子はここでも、パチパチと写真を撮って
います。
 今回は、時間も無いので、早々に本堂を出
て、帰りました。
 帰りに、私達四人で、竜宮城のような門を
くぐる時に、異変を感じました。
 何か目が廻るような感じになって、ふと、
気づくと、私達四人は、見たことのある、和
室の一室に居ました。
「あれ?ここ何処?」夏子はきょとんとして
います。みんなも一様に何が起きたのか解ら
なく、茫然としています。
 ここは、紛れも無い、夢で見た、あの和室
の所です。私は驚きで、一言も喋れません。
 あの悪夢が再び、現実となったのです。し
かも、今回は友達も一緒です。
「あわわわ。ここ。ここよ。私が夢に見たの
は!」私は、必死にみんなに説明しました。
「ええーー!?」由美子も夏子も幸江も、目玉
が飛び出しそうな勢いで驚いています。
「これは夢じゃ無いのよ!現実なのよ!ここ
は鳥居元忠達が自刃した伏見城の中なの
よ!」
「何でそんな事が起きるの!在りえない
わ!」由美子がいうと、「そうよそうよ」と、
他の二人も追随しました。
「とにかく、現実にこうして、起きているん
だから、仕方ないじゃん」私は途方に暮れて
言いました。

 お城の外から、「わぁわぁ」と人の怒号が
聞こえてきます。お城のあちこちで火災が発
生しているようです。
 事態は私が昨夜、見た時よりも更に悪くな
っているようでした。


             つづく

霊感修学旅行(5)

 一日にお寺を三箇所も廻ったので、私は疲
れて、早々に寝てしまいました。
 夜中に、トイレへ行きたくて、目が醒めま
した。普段は朝まで起きないのですが、寝る
前にみんなと話ながら、ジュースをがぶ飲み
したのがいけなかったようです。
 布団から、上半身だけ起き上がると、廊下
の方から、誰かが歩いているような、重い、
軋む音が聞こえました。
 何か、がちゃがちゃとした音も聞こえます。
 昼間の事もあり、怖くなった私は隣で寝て
いる由美子を揺り起こしました。
「ねぇ。由美子~。由美子ってばー」
 由美子は、うーんと唸って、なかなか起き
ようとしません。
「何よー。どうしたの?」やっと、由美子は
目が醒めたようです。
「あのね。廊下の方から音がするの。誰かい
るのかなぁ?」由美子は枕元の腕時計を見て、
「こんな、夜中に誰か起きてるの?」と、目
をこすっています。
「なんかね。重い足音が聞こえたんだけど」
「足音って?」
「うん。なんか、がちゃがちゃと音がして、
誰かが、部屋の外の廊下を歩いている音がし
たんだけど……」
「ええー!? ほんとに?夢でも見たんじゃない
の?」
 ここまで聞いて、やっと、由美子は理解し
たらしい。
「そんな事、無いって。あたし、トイレに行
きたくて、目が醒めたら、聞こえたんだか
ら」と、私がいうと、「ほんとにー?」とい
っている由美子の腕に鳥肌が立っているのが
見えました。
「ねぇ。怖いよー。どうしよー。あたし、ト
イレ行きたいんだけど。由美子、一緒に行こ
うよー」
「しょうが無いわねー。小学生じゃないんだ
から。じゃー、一緒に行ってあげるよ」
 二人は、こわごわと部屋の襖を開けて、部
屋の外の廊下に出てみると、そこには、もち
ろん、誰もいませんでした。
「ほらー。誰もいないじゃん」
「本当に、さっきは音がしたんだってば!」
私は半ば、やけくそ気味に言うと、「はい。
はい。わかりました」と、由美子にはぜん
ぜん取り合って貰えませんでした。
 トイレから部屋に戻ると、由美子も私もす
ぐに布団を被って、また寝てしまいました。
 布団の中で、あの音は何だったのだろう?
と、釈然としない気持ちのまま、再び、眠り
に落ちました。

(あれ?ここは何処?)
 私はいつの間にか、和室の一室にいます。
 周りにはクラスメートが、一人も居ません。
 襖を開け、廊下に出てみると、そこは、泊
まっている旅館の廊下と全然違います。
 廊下の向こうから、どやどやと人の集団が
走ってくるのが見えました。
 それを見た私の心臓は口から飛び出しそう
になりました。
 なんと、その集団は鎧甲冑を着ている武士
の集団でした。
(え!?何?何が起きたの?)
 これは夢だと思いました。しかし、凄くリ
アルな夢なのです。
 武士の集団はどんどん、こちらに近づいて
きます。やがて、武士の集団の先頭を走る男
が、佇んでいる私を発見したようです。
 集団は一旦、立ち止まり、私の出で立ちを
見て、向こうも驚いているようです。
 集団の頭らしき、先頭の男が一人、こちら
に歩いて来ました。
 私は、足ががくがくして、一歩も歩けませ
ん。鎧武者が間近に迫りました。
「そこの女。面妖な。何だ、その、斬ばら髪
は! なんだ、その着物は!敵の間者か!」
 佇んでいる私に向かって、鎧武者は言いま
した。
「あの。あの……」私は言葉が出ません。
「ぬぬ。怪しい奴。このわしが叩き切ってや
る!」鎧武者は腰の刀を抜くと、私に切りつ
けて来ました。
 咄嗟に私は言いました。
「鳥居さん!ごめんなさい!」
「何?なんで、わしの名前を知っている?ま
すます怪しい奴。なんで、わしの名前を知っ
ているんだ?」
 咄嗟に私の口から出た言葉が、鳥居だった
のには、私自身も驚きましたが、向かいの相
手の姓は鳥居だったようです。
(もしかして、前にいる男は鳥居元忠?まさ
かね)
「あのう。鳥居元忠さんですか?」
 私がおずおずと聞くと、「いかにも、拙者
は鳥居元忠だ」と、鎧武者は答えました。
(ええー!?何これ?夢?)
「そちは、何者だ?」と、鳥居元忠が聞くの
で、私は正直に答えました。
「○○高校。三年二組のようこです」
「何?今、なんと言った?益々、面妖な」
(しまった。まずい)
「あ。あたしは桂村のようこです」
 出鱈目をいうと、鳥居元忠はそんな村あっ
たか?という表情で言いました。
「まあ。良い。女こどもを切るのは偲びない
ので、お主は牢屋に入って貰うぞ」そういっ
て、鳥居元忠は部下に命ずると、先に行って
しまいました。
「ああー。ちょっと、待って下さいよー」私
の言葉も空しく、既に鳥居元忠には届かなか
ったようです。
 私は部下に捕まり、牢屋まで連れていかれ、
座敷牢のような処に入れられてしまいました。
(まずい。非常にまずい。ここは戦国時代。
しかも、鳥居元忠が自刃する前の伏見城)
 牢屋に入れられた私は、早く夢から醒めな
いかな、と思いながら、泣きながら寝てしま
いました。


              つづく

2009年9月21日月曜日

霊感修学旅行(4)

 夏子だけは例外で、目を輝かせて、お坊さ
んの説明を聞いていました。
「夏子さぁ~。怖くないの?」
 由美子は呆れた顔で夏子に聞きました。
「ぜんぜん。あたし、これ、ずっと見たかっ
たんだ」
「気が知れないわ」由美子は相手にできない
といった様子で、すたすたと先を歩いて行き
ました。
「ああ。待ってよー。もっと、じっくり見よ
うよー」夏子は由美子の後を追って行きまし
た。
「あ、由美子。私も行くー」
 残された私と幸江も由美子の後を追いまし
た。
 養源院を出た私達は、次の目的地の正伝寺
に向かう予定です。
 しかし、実際に血天井を見てしまい、これ
は実際に在った事なのだと思うと、背筋がぞ
くぞくして、私は気乗りがしませんでした。
「ねえー。次、行くのー?これで止めて、ど
こか、甘い物でも食べに行こうよー」私がい
うと、夏子は手を横に振って、「何言ってる
の?だめだめ。予定通り、全部見るの!学校
にも、予定表、提出してるでしょ」
「だってー。怖いんだもん」
 私は泣きそうな顔でいうと、幸江も由美子
も、うんうんと頷いている。
「何、言ってるの。怖い事なんて、なんも無
いよ。さ、行こう」といって、またもや、先
をずんずんと歩いて行きます。
 門を出て、タクシーを捕まえた私達は、次
の目的地の正伝寺に向かいました。
 
 正伝寺に着いた私達は綺麗な庭園を見た後、
本堂の廊下にある血天井を見学しました。
 やはり、ここの天井にも、赤茶けた、おび
ただしい血のシミ跡が付いています。
「怖いよう。ね、ね。早く行こう」
 私は、熱心に見ている夏子を促して、お堂
を出ました。

 後から解った事なのですが。近年の目覚し
い、血液学の発展によって、ここの天井を分
析した結果、シミは紛れも無く、人間の血液
だと判明したそうです。

「次、行くわよ」夏子がいうと、「ねー、や
っぱ、止めようよー」私は夏子の袖を引っ張
りながら、駄々をこねました。
「今日は、あと一つだから」といって、夏子
はタクシーを呼ぶため、お寺の受付の所に行
ってしまいました。
 程なく、タクシーが来て、今日の最後の源
光庵に向かいました。源光庵は正伝寺から近
い所にあり、7~8分で着きました。
 当然ながら、ここも、お堂の廊下の天井は
血天井です。中には、人間の足跡がくっきり
と付いている箇所もあります。
「ひー。あ、あれ。人間の足跡」私が天井を
指さすと、みんな、一斉にその方向を見まし
た。
「本当だ!?」幸江と由美子はそれを見て、引
いています。
 夏子だけは、平気な顔をして見ています。
 あろうことか、夏子はカメラを取り出して、
写真を撮ろうとしています。
「止めなさいよ。夏子」私が止めると、「何
で?」と惚けた顔をしています。
「なんか、写っていたら、怖いじゃん」
「何が?」
「何がって。心霊写真――」
「あはは。大丈夫よ。そんなの写る訳ないじ
ゃん」夏子は豪快に笑うと、私が止めるのも
聞かず、パチパチと天井の写真を撮りました。

 見学を終わった私達はタクシーを呼び、宿
に近い所で降りて、お蕎麦屋さんで食事をし
ました。
「ねえ。明日も行くの?」私が夏子に聞くと、
当然といった顔で、「当然よ。明日は宇治市
にある興聖寺よ。見学した後、駅の近くの甘
味処に行きましょ。老舗のお店で、抹茶アイ
スとか、宇治金時とかあるのよ」
 他の二人は、宇治の甘味処に行くのは、賛
成だったけど、興聖寺はあまり、気乗りがし
ないようでした。

 宿に戻って、その夜。私は恐ろしい夢を見
ました。


              つづく

2009年9月19日土曜日

霊感修学旅行(3)

       ・・・

 修学旅行の初日、私達三年二組の一行は宿
に着きました。
 翌日は、先生から、宿へは五時までに戻っ
てくるようにと言われ、いよいよ、プラン通
りに行動することになりました。
 宿は京都駅から程近い所にあります。まず
はプランに沿って、一番近い所にある養源院
から見て廻ることになっています。
「じゃー、養源院にレッツゴー!」
 夏子が嬉々として地図を片手に歩き出しま
した。
「ええと。ここの場所はここだから……。こ
っちよ」夏子は大股で肩で風を切って、四人
の先頭に立って歩いて行きます。
「ちょっと待ってよー」
 私達三人は回りをきょろきょろと見回しな
がら、先頭を歩く夏子について行くのがやっ
とでした。
「こっちよ!」三十三間堂前に着いた私達は
夏子の指し示す門の中に入って行きました。
 養源院に着いた私達は、早速、お堂の中に
入り、本堂廊下にある血天井を見学しました。
 天井はシミだらけで、いかにも血の跡のよ
うに見えます。お坊さんが、長い竹竿で、こ
こが頭で、ここが手とか、指し示して、説明
しています。「きゃっ!あそこに人間の手の
跡が!」幸江が口に手を当てて、天井の一角
を指さしています。確かにそこは、人間の手
の跡のように、生々しく見えます。
 夏子から、事前に聞いていた話を思い出す
と、ぞくぞくしました。
 鳥居元忠とその家臣達が私達の背後に居る
ような気がして、思わず私は背後を振り返っ
てしまいました。勿論、そこには、私達の後
ろに続く、観光客しか居ませんが、背筋がぞ
くぞくします。昔から、霊に感応しやすい体
質の私は、この時、ここに来てしまった事を、
少し後悔しました。
 そして、子供の頃を思い出しました。
 あれは、私が幼稚園生の時でした。私の家
は海岸に近い所にありました。近所のお友達
の哲也君が面白い物があるから、見に行こう
というので、家からちょっと離れた所にある
砂丘の所に行きました。
 哲也君は砂丘に着くと、「ここだよ」とい
って、砂丘の一角を指さしました。
 よく見ると、砂場のあちこちの表面に円錐
形の凹みがあります。
「よく見てろよ」と哲也君はいうと、近くを
歩いている蟻を捕まえて、その円錐形へ落と
しました。蟻は一生懸命、円錐形の所から這
い上がろうとしますが、砂が落ちて滑って、
上がれません。すると、円錐形の底の方から、
二本の爪のような物が出てきて、蟻を捕まえ
てしまいました。蟻はもがくけど、がっちり
と捕まえた爪は蟻を逃しません。
 やがて、蟻は砂の中に曳きづり込まれてし
まいました。
 その様子を、驚いて見ている私に、哲也君
は自慢げに「これはな。蟻地獄っていうん
だ」と教えてくれました。
 そして、蟻を捕まえては、蟻地獄に落とし
ました。私も、蟻を捕まえて、落としてみま
した。残酷な気持ちが子供心に沸きました。
 哲也君は円錐形の砂の底から、小さな虫を
ほじり出しました。
「これが、蟻地獄だよ」といって、手の平に
載せて、見せてくれました。3ミリ程の小さ
な虫はお尻を使って、一生懸命、砂の中にも
ぐろうとしていますが、そこは人間の手の平
の上です。潜れません。
「ほれ、ようこも持ってみろ」といって哲也
君は私の手の平に蟻地獄を載せました。
 蟻地獄のお尻が、もぞもぞと手の平をほじ
るので、とても、くすぐったかった思い出が
あります。
 私は「いやっ!?」といって、蟻地獄を放り
ました。 
 その夜、私は恐ろしい夢を見ました。
 蟻と蟻地獄が私の枕元に立って、恨めしそ
うに、私を見ているのです。枕元に立ってい
る蟻と蟻地獄はとても大きいのです。人間の
子供位の大きさがありました。しかも、蟻も
蟻地獄も、どういう訳か、虫のくせに、しっ
かり、二本足で私の枕元に立っているのです。
 私は「蟻さん、蟻地獄さん、ごめんなさ
い」と言って、布団を頭から被って震えてい
ました。少し経って、そっと、布団の中から
顔を出して、枕元を見てみると、そこには、
もう、蟻も蟻地獄も居ませんでした。
 今でも、妙にリアルに思い出されます。
 あれは、虫の霊が出てきたものと、今でも
思っています。
 ふと、我に返って、みんなを見回すと、夏
子を除いて、みんな一様に、気味の悪そうな
顔をしています。
 夏子だけは例外で、目を輝かせて、お坊さん
の説明を聞いていました。
 
              つづく