2011年7月23日土曜日

『手鏡』

    『手鏡』

           ようこ( ̄ー ̄)v

 近所にリサイクルショップが開店しました。
今日は、学校の帰りに、お友達と、そのお店
に寄ってみることにしました。
 「ねえねえ。これ見て、かわいいでしょ」
雑貨コーナーを見ていた、お友達の美子が、
熊のプーさんを型どった貯金箱を手に取って、
私に見せます。「うん。かわいいね」と相槌
を打ちながら近くのコーナーを見ると、アン
ティーク調の手鏡が目に入りました。
 その手鏡の背面にはバラを型どった模様が
描かれていました。私は妙に、その手鏡に惹
かれました。手に取って、しげしげと見つめ
ていると、美子が言いました。
「何?その古臭い手鏡は?」
「うん。なんか、妙に惹かれるのよね」する
と美子は気が知れないといった様子で、「え
えー?何処がー?!」と言いながら、他のコー
ナーへ行ってしまいました。
 手鏡は、お小遣いで買える値段でした。私
は、この手鏡を購入することにしました。
 店を出ると、美子が、「ようこ、あの手鏡
買ったの?」と、呆れ顔で、私に訪ねました。
 「うん。素敵でしょ」手鏡を包から出して、
美子に見せました。美子は手鏡を手に取ると、
「これがねー?」と言いながら、私に返しま
した。
 友達と分かれ、家に帰り、部屋で手鏡を出
して、見ました。見れば見るほど、素敵な手
鏡に思えてきました。
 (もしかしたら、この手鏡は魔法の鏡か
も?)と不意に思えてきました。鏡の中には、
いつもの、代わり映えのしない、私の顔が写
っています。(明日の運勢を占ってみようか
しら?)
「鏡よ鏡。明日の運勢はどうかしら?何かい
い事が起こる?」と、鏡に向かって、言って
みました。
 一瞬、鏡が曇って、私の顔が悲しそう顔に
見えました。(あれ?こんな顔したっけ?)       
パチクリと瞬きをして、鏡を見ると、普段ど
おりの私の顔です。
 「ご飯ですよー」と、お母さんの声が部屋
の外から聞こえてきます。妙に違和感を覚え
つつ、手鏡を置いて、部屋を出ると、もう、
その事は忘れていました。
 翌日、晩ご飯の食卓で、お父さんが、「今
日、会社で先日の健康診断の結果を渡されて
ね。どうも、胃に陰りが写っているようなん
だ。再検査に成ってしまったよ。ガンでなけ
れば良いが」と、お母さんに言いました。
 お母さんも私も、とても心配になり、その
日の晩ご飯は、少しも美味しくありませんで
した。
 食事を終えて、部屋に戻ると、あの手鏡を
取り出して、聴いてみました。
 「鏡よ鏡。お父さんのお腹は大丈夫な
の?」すると、また、鏡は一瞬曇り、私の顔
は笑顔になっていました。
 (あれ?こんな時に笑顔なんて出来ない
よ? この鏡、おかしい?!私、笑った憶えな
いわ)と思いながら、良く鏡を見てみると、
怪訝そうな顔をした、私が写っています。
 数日して、お父さんの精密検査の結果が判
りました。良性のポリープだったそうで、胃
カメラで、その場で切除したそうです。
 お父さんが、なんとも無くて良かった。
 もしかして、あの手鏡は数日後の事が予測
できる魔法の鏡かも?
 今度は、もっと大事な事を占ってみよう。
 数日後にバレンタインが控えています。吹
奏楽部の部活動で、いつもお世話になってい
る、憧れの山本先輩にチョコを渡そうか、止
めようか、ここ数日、思い悩んでいます。
 手鏡に占って貰いましょう。
 「鏡よ鏡。山本先輩にチョコを渡しても、
大丈夫?」
 すると、また、鏡は一瞬曇って、私の泣い
ている顔が写りました。
 「やだ!何これ?」私は気味が悪くなって、
鏡をベッドに頬り投げてしまいました。
 泣いている顔が写ったという事は、私は山
本先輩にフラれるんだわ。やっぱり、山本先
輩にチョコを渡すのは止めようと思いました。
 
 今日は、バレンタインデー。
 そして、授業も終わり、部活の時間になり
ました。
 先日の鏡の結果が怖くて、山本先輩にチョ
コを渡そうか、止めようか、躊躇していまし
た。そうこうして居ると、山本先輩が、私に
声を掛けてきました。
 「ようこちゃん、ちょっと、いいかな?部
活が終わったら、調理室に来てくれない?渡
したい物があるんだ」と、照れくさそうに、
後頭部を掻いています。「はい。判りまし
た」と返事はしたけど、私の心臓はドクンド
クンと脈を打って、破れんばかりです。
 部活が終わって、調理室に行ってみると、
山本先輩が待っていました。
 「はい。これ」と言って、先輩がリボンの
付いた赤い包を私に差し出しました。
 (もしかして、チョコレート?逆チョ
コ?)包を受け取った私は、嬉しさのあまり、
泣いてしまいました。
 山本先輩は、そんな私を見て、慌てて、
「ようこちゃん、どうしたの?泣かないで
よ」と、心配そうに、気お使ってくれます。
 「先輩、ありがとうございます。私、嬉し
くて……」その日は、山本先輩と一緒に、家
族の事とか、部活の事とか、いろんな事を話
しながら、帰りました。
 先日占った時の、あの、鏡に写っていた私
の泣き顔は、嬉し泣きの顔だったのでした。
 それからというもの、私は肌身離さず、手
鏡を持ち、何をするにも、まず、手鏡で占っ
てから、行動するように成りました。
 ベッドから起き上がると、朝一番で、いつ
もの様に手鏡で占ってみようと、鏡をかざし
てみました。「鏡よ鏡。……」
 今日は、鏡が反応しません。
(あれ?どうしたのかしら?鏡の力が無くな
ったの?)何時も何時も鏡の力に頼っていた
為、とても不安になりました。授業中も勉強
に身が入りません。鏡は家に置いて来ました。
 と、そこへ、大地震が襲って来ました。初
めは、いつもの地震かと思っていたら、だん
だん大きくなり、今までに経験した事の無い
揺れが、教室を襲いました。机の下に身を隠
し、揺れが収まるのを待ちました。とても長
い間揺れていました。揺れが少し収まると、
私達は校庭に避難しました。
 間もなく、全校生徒は帰宅するように指示
が出ました。
 家に帰ってみると、お母さんが、家の片付
けをしていました。家の中は物が散乱し、惨
憺たる有様でした。でも、お母さんが無事で
良かった。
 二階の自分の部屋に入ってみると、やはり、
物が棚から落ちて、散乱していました。あの
手鏡も落下して、鏡が割れていました。
 (そうか。これが原因で、鏡は反応しなか
ったんだわ)そう、納得すると、何かが、心
の中で吹っ切れたような気がしました。
 後から、良く考えてみると、鏡が占ってく
れたのでは無く、総ては自分自身の心の弱さ
から来た、思い込みなのだと思えて来ました。
 震災前と後では、良かれ、悪しかれ、人々
の心は確実に変わりました。
 これからは、強く生きなければと、思うこ
の頃です。

             おわり。

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