2009年9月7日月曜日

キス女

   キス女

           ようこ( ̄ー ̄)v

 この物語はフィクションです。物語に登場
する人物及び団体は架空のものです。実在の
人物および団体とは一切関係ありません。

 みなさんは子供の頃に、お友達と遊ぶ時に
どんな事をして遊んだでしょうか。
 子供の頃の遊びが、その後の人生において、
原体験として個人の人格形成に大きく影響し
ているというのは周知の事だと思います。
 今日は、そんな子供の頃に体験した、私の
その後の人生に大きく影響した事柄を、お話
してみたいと思います。

 あれは、私が小学校の四年生の頃でした。
私は田舎の小学校に通っていました。
 全学年の人数も少なく、どの学年も、ひと
クラス35人前後で二クラス程度の構成でし
た。
 新学年となり、一年生の頃から、ずっと、
代わり映えのしないクラスの子たちと話をし
ていると、先生が転校生を連れて、教室に入
ってきました。
「はいはい。皆さん。席についてください」
そう言うと、先生は黒板に大きな文字で「新
井菜々」と書きました。
「今日から、皆さんとお友達になる、新井
菜々さんです。新井さんはお父さんのお仕事
の関係で東京から引っ越して来ました。みな
さん、仲良くしてあげてくださいね」
 転校生は見るからに、あか抜けていて、着
ている服から、物腰から何から、一目瞭然に
田舎の子とは違いました。
 田舎の小学校ですから、転校生はめったに
来ません。田舎の子にとって、都会の子を見
るのはこの時が初めてでした。
 みんなは物珍しそうに、じろじろと女の子
を見ました。休み時間になって、みんなが
菜々ちゃんに群がりました。
 菜々ちゃんはかわいいので、特に男の子達
が、放おっては置きませんでした。
 クラスの中でも、ガキ大将の健太君が菜々
ちゃんに、「おお。おめぇ、東京のどごがら
来たんだ?」って聞くと、奈々ちゃんは明る
く「浅草」って言いました。
 浅草と聞いても、田舎の子にはピンときま
せん。健太君は、「そうかそうか」と言って
いたけど、本当は浅草が何処にあって、どう
いう所か解っていなかったと思います。
 菜々ちゃんの話し言葉は田舎の私たちと違
って、当然ですが標準語で話します。それに
対して、私たちの言葉は訛っていて、汚いの
ですが、生まれてから、ずっと、この言葉で
話しているし、みんなも同じ言葉で話してい
るので、訛った喋りが私たちにとっては標準
語なのです。
 テレビ以外では、初めて聞く標準語のイン
トネーションに、私たちは軽いカルチャーシ
ョックを味わいました。(作者注 カルチャ
ーショックという言葉はこの頃はまだ、あり
ませんでした)
 初めて聞く標準語に対して、私たちの言葉
は、なんて、汚いことか。私は内心、恥ずか
しくなりました。
 すぐに、菜々ちゃんは男の子たちの人気者
になりました。それに対して、女の子たちか
らは人気がありませんでした。
 特に、クラスの女の子の中で派手目な美智
子ちゃんが、クラスの女の子三~四人と話し
ているのが、漏れ聞こえて来ました。
「何よ。少しくらいかわいいからって。取り
澄ましちゃって。ね~」
 仲間の女の子も「うんうん」と頷いていま
す。
 私はボーっとした子だったので、どのグル
ープにも加わりませんでしたが、奈々ちゃん
とは距離を置いていました。
 
 休み時間になると、教室の中が急に騒がし
くなります。
 ガキ大将の健太君が、子分の武君と一樹君
とその他、何人かの男の子を集めて騒いでい
ます。
 その輪の中に、菜々ちゃんもいます。
「おい、菜々。こいつにキスをしろ」
 健太君は、男の子の輪の中にいる一人の子
を指差して、菜々ちゃんに言いました。
「うん。良いよ」
 菜々ちゃんは嫌がる様子も無く、嬉々とし
て、口をチューの格好に突き出し、男の子に
キスようとしています。
 嫌がる男の子は、健太君の子分達に押さえ
られながらも必死に抵抗しています。
「バガヤロー!てめー。そんなごどしたら、
許さねーがんな!」
 二人の男の子に、抑えられた男の子は必死
に抵抗し、叫んでいます。
 菜々ちゃんは、男の子の必死の訴えに怯ん
だ様子でした。
 健太君が「菜々。何してんだ。早ぐやれ
よ!」と言うと、菜々ちゃんは口を尖らせた
まま、武君と一樹君に、羽交い絞めにされた、
男の子の顔を両手で掴んで、男の子の唇へチ
ューをしました。
 それを見て、「あははは」と一斉に笑い声
が起きました。
 キスをしている時間は短い時間でしたが、
キスをされた男の子は「バカヤロー」と奈々
ちゃんに言うと、泣きそうな顔をしながら教
室から飛び出して行きました。
「おい。菜々、次はこっちな」と言いながら、
健太は別の男の子を指差しました。
 その命令にも、菜々ちゃんは嫌がる様子も
無く、嬉々として従っています。
 私は見て居られなくなり、教室を出ました。
 (なんで、菜々ちゃんはあんな奴に、従っ
ているのだろう?)
 そのときは、菜々ちゃんの気持ちが解らな
く、不思議でなりませんでした。
 
 後日、給食当番になり、菜々ちゃんと組む
事になりました。
 その時に思いきって、菜々ちゃんにこの前
の事を聞いてみました。
「何で、あんな事をしたの?健太君に脅され
たの?」と聞くと、「いいえ」と首を横に振
って、自分から進んでやったと言いました。
「何で?」と聞くと、「お友達がいなくて寂
しいから」と、悲しそうな顔をして言いまし
た。
「あたしね。お父さんのお仕事の関係で転校
ばっかりしていて、お友達が出来ないの。そ
れで、かまってくれる健太君達が嬉しくて…
…」
 その事を聞いて、奈々ちゃんが可愛そうに
なり、私は言いました。
「そっかぁ。それじゃ、私がお友達になる」
と言うと、菜々ちゃんは嬉しそうに、「本
当?」と言って、目をきらきらさせて、
「じゃー、今度の日曜日にあたしんちに、来
ない?」と誘われたので、私は二つ返事で誘
いを受けました。

 日曜日に菜々ちゃんの家へ一人で行ってみ
ました。
 菜々ちゃんの家は私の家から2キロ程、離
れた所にあります。
 最近出来た、新しい団地の社宅です。
 近所のお友達と時々、団地の公園に遊びに
行っていたので、場所は知っていました。
 その団地は某大企業の転勤族が住む社宅と
して建てられたものでした。
 玄関のチャイムをピンポンと押すと、奈々
ちゃんのお母さんが出て来ました。
 菜々ちゃんに似て、美人のお母さんです。
うちのお母さんとは、えらい違いです。
 こんな美人のお母さんがいる、菜々ちゃん
がちょっと、羨ましくなりました。
「菜々。お友達よー」と、お母さんが言うと、
奈々ちゃんが玄関口まで来て、「あがってあ
がって」と言うので、菜々ちゃんの部屋に行
きました。
 菜々ちゃんは一人っ子で、両親に可愛がら
れているらしく、お人形さんを沢山持ってい
ました。三人姉妹の貧乏な私の家とはえらい
違いです。
 私の持っている物といえば、薬屋さんから、
無料で貰える、ウサギの人形とか、カエルの
人形とか、そんなのばっかりです。
 お人形さんで着せ替え遊びをしていると、
奈々ちゃんのお母さんがショートケーキを持
って部屋に入ってきました。
「はい。三時のおやつですよー」と言って、
トレイに載せたショートケーキとジュースを
菜々ちゃんの勉強机の上に置きました。
 その頃のケーキと言えば、私にとっては超
高級品で、クリスマスの時ぐらいしか食べら
れませんでした。お菓子と言えば、せいぜい、
駄菓子屋さんで買った、チューブ入りのチョ
コレートをすする事ぐらいでしょうか。
「菜々と仲良くしてあげてね。転校ばかりで、
この子、お友達が居ないの」と、菜々ちゃん
のお母さんは私に優しく言いました。
 私は「はい!」と元気良く答えると、お母
さんはにっこりと微笑んで、「ゆっくりして
行ってね」と言って、部屋を出ていきました。
 お人形さん遊びは止めて、二人でケーキを
食べていると、「ねえねえ。ようこちゃん、
目を瞑って、舌出してみて」と、奈々ちゃん
が私に擦り寄って来ました。何だろうと思っ
て、言われるままに目を瞑り、舌を出してみ
ると、その舌をペロッと舐められました。一
瞬、何をされたか解りませんでした。
 唖然としている私に、「ねえ?気持ちい
い?」と聞いて来ました。
 私は、「わかんない」と答えると、「もう
一回、舌出して」と言われたので、舌を出す
と、奈々ちゃんのベロがぐにゅんぐにゅんと
私の舌の裏から表から舐め廻してきます。
 ナメクジが這っているような、気持ち悪い
ような、気持ち良いような、変な感じでした。
 再度、「気持ち良い?」と聞かれたので、
「うん」と答えると、菜々ちゃんは満足した
ようにニンマリすると、「さ、ケーキ食べよ
う」と言って、食べ残しのケーキを再び食べ
はじめました。
 ケーキを食べ終えた私は、家に帰ると言っ
て、その日は帰宅しました。
 学校では菜々ちゃんと遊んでいたけど、あ
れから、私は菜々ちゃんの家に遊びに行く事
はありませんでした。
 その後、菜々ちゃんは私が小学校五年生に
なる前に再び、転校して行ってしまいました。
       ・・・
 今思えば、ファーストキスはレモンの味と
か言いますが、私の場合は甘いケーキの味で
した。しかも、相手は同姓の女の子でした。
       ・・・
 月日は経って、私も高校生になり、パン屋
さんのアルバイトに精を出していました。
 そんな中、バイト先の大学生と仲良くなり
ました。
 ある日、大学生から、私の事が好きだと告
白されました。
 付き合いだして、三度目の車でデートのと
き、帰りの車中でキスをされました。
 この時、キスをされながら思ったのは、ま
ず、髭が当たって痛い。口がタバコ臭い。
 全然ロマンティックな気分とは、かけ離れ
ていました。
 夏休みも終わり、バイトも終わると、その
大学生とは、なんとなく、別れてしまいまし
た。
       ・・・
 小学生の時、同性の柔らかい舌と唇で、私
の舌を嘗め回された感触が、今でも忘れられ
ません。
 今では、ふと、同性の柔らかそうな唇を見
ると、キスをしたくなる衝動に駆られる時が
あります。
 あの小学生の時の体験から来ているに違い
ないと思う私が居ます。
 
                おわり

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