2009年9月9日水曜日

極道女医『釜美』(2)

 月日が流れるのは速いもので、釜美も三宮
中学の一年生に成った。
 釜美にはリーダーの素質があるのか、その
人望と面倒見の良さから、中学に入っても釜
美の周りには人が集まった。
 本人の意識するしないに関わらず、釜美の
周りには人が集まり、次第にグループを形成
して行った。
 釜美のグループとは別に、同学年の利美と
いう子にも、仲間が集まりグループを形成し
つつあった。
 利美は瓶田財閥の一人娘で、何不自由無く
育った。
 天真爛漫な性格と美貌から、特に男の子の
取巻きが多く、利美の廻りには常に三~四人
の男達が付いて廻った。
 釜美と利美、その出自や性格から何から、
全く正反対の二人が衝突するのはごく自然の
事なのかも知れない。

 事件は起こった。
 利美のグループの子で、絵美という子が釜
美は暴力団の娘だと、学校中に言いふらした
のだ。
 絵美の父親はヤミ金業者から借金をした。
 そのヤミ金業者は暴阿組が経営するものだ
った。
 この頃、釜美の母、はじめは、頼まれて、
ヤミ金業者の事務を手伝っていた。
 はじめと絵美の父親はヤミ金業者の事務所
でばったり会った。
 世の中は狭いもので、絵美の父親と釜美の
母親は同級生だった。
 二人は懐かしさも手伝って、お互いの子供
が中学生で三宮中学に通っていることなどを
話した。
 絵美の父親は昔のよしみで釜美の母『はじ
め』に借金の利子をちゃらにしてくれと頼ん
だ。
 『はじめ』は父の観留にその事を話したが、
聞き入れては貰えなかった。
 そういった一部始終を絵美の父親は家族に
話した。

 釜美は祖父が暴力団の親分だという事をひ
た隠しに隠していた。
 学校の帰りは何時も一人で帰った。何より
も、友達に家を知られるのが怖かった。
 そんな釜美にとって、恐れていた事がとう
とう起こってしまった。
 その事が学校中に知れ渡り、グループから、
一人二人と釜美の元を去って行った。
 気が付くと、釜美は一人孤立する状態に成
っていた。
 
 ある日、釜美は利美のクラスへ抗議しに行
った。
 利美の机の周りには四~五人の子が集まり、
談笑していた。
「ちょっと、利美。あんたん所の絵美って言
う子が、有ること無いこと、私のことを学校
中に言触らしたそうね?」
 廻りは水を打ったように静まり還った。
 利美は何の事と謂わんばかりに惚けて「何
を言ってるの?あたしはそんな事、知らない
わよ」と云った。
 釜美はその一言を聞いて、今まで押さえて
いた感情が爆発し、怒り心頭に発した。
「惚けるのもいい加減にしなさいよ!あんた
ん所の絵美って言う子が言触らしているのを、
あたしの友達が聞いてるのよ!」
 そう言うなり、利美の頬を平手で、「パン
ッ」と打った。
「何をするの!」
 利美は親にも殴られた事も無いのに、他人
に殴られた事が、相当ショックだったようで、
その場に呆然と立ち尽くした。
 それを見ていた、利美の取巻きの男の子が
黙っては居なかった。
「何するんだ!テメー!」と云うなり、釜美
の襟首を掴もうとした。
 釜美は相手の右手の小指を一瞬の内に掴み、
「えいっ」とばかりに捻った。
 男の子は「ギャー」っと叫び、もんどり打
って倒れた。
 釜美は合気道の心得もあった。
 それを見た利美のとりまきの男の子達は一
斉に釜美から距離を置いて離れた。
 倒された男の子は立ち上がって「ちきしょー。
憶えてろよ。利美さん、こんな奴は相手にし
ないで、向こうへ行きましょう」と云って利
美の手を取った。
 利美はとりまき達に囲まれるようにして、
その場を去った。
 後に残された釜美を遠巻きに見る、利美の
クラスの子達の視線に、釜美は耐えられなく
なり、無言でその場を去った。
 この事件から、釜美はいっそう、周りから
恐れられて、孤立した状態になった。
 だが、ただ一人、釜美を慕って、以前と変
わらず接してくれる子がいた。同級生の理容
子だ。
 彼女のおかげで釜美は精神的にどれだけ助
けられたことか。
 二人は親友となり、その後も二人三脚の人
生を送ることになる。

   ・・・・

 釜美の中学時代は友達も少なく、寂しいも
のとなったが、その分、勉強に打ち込んだ。
 子供の頃に思った(医者になって、ケガを
している人を助ける)という志は今も変わら
なかった。
 釜美は兵庫県有数の進学校に進学した。

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