2009年9月9日水曜日

たっくんの完全なる飼育(2)

 そう言うと、男の子は、また、視線を川に
戻した。
 あっさり、無視されたので、あたしは少し
カチンときて、この子を虐めたくなった。
「あのさー、君。昨日も一昨日も、ここに来
て、川を見てるでしょう?何が楽しい訳?」
 男の子は煩わしそうに、こちらを見た。
「別にいいだろう。人が何しようと。何だよ
君は」
 男の子は少し、怒ったように言った。
 そんな男の子を見て、あたしはさらに、虐
めたくなった。
「あのねー。あんたが、今にも川に飛び込み
そうに見えたから、心配して声を掛けてあげ
たんじゃない。人の親切もわからないようじ
ゃ、ダメね」と、思ってもいないことを口に
した。
 男の子は、はっとしたような顔になった。 
頭を掻きながら、照れたように言った。
「ごめん。人の親切も分からない……。僕っ
て本当にダメな奴だ」
 あら?以外と素直ね。ここで、自己紹介で
もしておこうかしら。
「そんな……。あたし、ようこ。君は?」
「僕は、竹部 朗愚。三宮大学の二年生です」
「そう。君、何か訳がありそうね。ここで会
ったのも何かの縁ね。良かったら、お姉さん
が相談に乗ってあげようか?」
 竹部は、「はぁ」と小さく頷いた。
「そうねぇ。すぐそこに喫茶店があるから、
そこで話さない?」
 あたしは、竹部を連れて、近くの喫茶店に
入った。
 喫茶店の中は薄暗く、他に客はいないよう
だった。
 あたしは竹部に椅子を勧め、テーブルに向
かい合って座った。
「君さぁ。本当に、今にも身を投げ出しそう
に見えたよ。お姉さんに話してみなさい。気
が楽になるかもよ?」あたしは、出来るだけ
明るく言った。
 竹部はぼそぼそと話し出した。
「最近、彼女と巧くいってなくて。ついこの
間も些細な事で喧嘩をして、それから、ずっ
と、彼女が口をきいてくれなくて。僕は彼女
の事が、分からなくなってきたんだ」
 なんだ、恋愛の悩みかと思ったが、一応、
聞いてあげることにした。
「それで、君は彼女の事をどう思っているの?」
「僕は、彼女の事が好きです。こんな事で終
わりにしたくありません。どうしたら、良い
のか、分からなくなって。それで……」
 よし、巧いことのってきた。
「ははーん。そういう事か。よし、わかった
わ。お姉さんが、君の為に一肌脱いであげよ
うか。後で電話するから、君の携帯教えて」
 竹部の携帯の電話番号とメアドを教わって、
今日は、これから用事が在るからと、一旦別
れた。

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