2009年9月9日水曜日

たっくんの完全なる飼育(9)

  第三章 霊感少女

 理恵はなんとしても、理容子に会いたかっ
た。
 会って、その超能力の真偽の程を確かめた
かった。その超能力が本物なら、きっと、た
っくんの行方の手がかりが掴めるはず、と思
った。
 理容子に会えるように、利美に頼み込んだ。
 利美はわかったと言った。会える手はずが
整ったら、連絡すると言った。

 明後日、利美から、連絡があった。
 この間の喫茶店に理容子を連れてくる、と
言って電話は切れた。
 理恵は信に連絡し、喫茶店に向かった。
 喫茶店には既に、利美と理容子らしき女の
子が来ていた。
「おまたせー」
 理恵は喫茶店に入ると、利美と、その女の
子を見た。
 女の子は別段、変わった様子は無く、どこ
にでもいる普通の女子大生という感じだった。
 利美が紹介した。
「この子が理容子ちゃんです」
 理容子は軽く会釈をすると、「はじめまし
て」と言った。
「こんにちは。あたしは、理恵です」
 お互いに自己紹介をしていると、遅れて、
信君もやって来た。
「ごめん、ごめん。遅くなって」
 信は慌てて来たようで、息が乱れていた。
 理容子さんに信君を紹介して、早速、本題
に入った。
「理容子さん、ごめんなさい。初対面なのに
呼び出すような事をして。利美から聞いてい
ると思いますけど、あたし達の友達が失踪し
て、行方がわからなくなっているの。そこで、
理容子さんの力を借りられないかなと思って
……」
「はい。だいたいのお話は利美ちゃん
から聞きました。あたしで、お役に立つなら、
ご協力します」
 その返事を聞いて、理恵は安心した。
「本当ですか?ありがとうございます」
 理恵は礼を言った。
 この子が本当に超能力の持ち主なのかどう
か、確かめなくてはと思った。
「あのう?利美から、聞いたんですけど、理
容子さんは、本当に未来が見えるんですか?」
 理恵からの突然の質問に理容子は困ったよ
うな顔をして言った。
「え?あたしは未来を見ることは出来ません」
 理恵は理容子の以外な返答を聞いた。
「理容子さんは人の考えていることが判るっ
て聞いたんですけど……」
「そんな……。正しくは、何て言えばいいのか
な?物に触ると、その物体が持っている記憶
を読み取ることが出来る、と言えばいいかしら?
 全ての物体には記憶があるのよ。丁度、コ
ンピュータのメモリーみたいにね。あたしは、
その物体の記憶を触るだけで、直接読み取る
ことが出来るの。
 だから、人に触れると、その人の考えてい
る事がわかるの。
 あとは、人の想念の凝り固まった場所とか
に行くと、その想念に囚われてしまう事もあ
るわ。
 例えば、不慮の交通事故で亡くなった人が
自縛霊となっている場所にさしかかると、急
に車のハンドルが動かなくなって、危うく事
故を起こしそうになったりとか……。
 だから、超能力と言うよりも、霊感力だと
思うの。
 あたしは、この能力のおかげで、今まで、
どんなに嫌な思いをして来たことか。
 一時は自殺も考えたわ……」
 理恵は理容子さんの深い悲しみの一端を垣
間見たような気がした。
 理容子は淡々と話を続けた。
「だから、あたしの場合は未来はわからない
わ。あたしの思うに予知能力というのは、当
たらないものだと思うの。
 これも、木から教えて貰った知識なんだけ
ど……」
「木?あの?植物の木ですか?」
 理恵は聞き間違いかと思って、不思議そう
に聞いた。
 理容子は微笑みながら言った。
「そ、植物の木よ。キャンパスに300年前
の銀杏の木があるんですけど、あたし、時々、
その銀杏の木に触って、お話するの」
 銀杏と話しをする少女か……。なんとも、
不思議な少女だと思った。
 理容子は話を続けた。
「その、銀杏の木が言うには、未来は現在の
延長上にあるんだけど、幾つも枝分かれして
いるの。その枝分かれした先が未来なの。だ
から、いくつもの未来が無数にあるの。その
未来は、丁度、RPGゲームのようにその時
の選択によって、時々刻々と変わっていくの。
 だから、未来をある程度、予測は出来ても
見る事は不可能なんだって。銀杏の木さんは
言ってたわ」
 聞けば聞く程、不思議だと思った。
「また、銀杏の木さんはこうも、言ってたわ。
だから、タイムマシンという物は無いんだっ
て。過去に戻る事は出来ても、その過去から、
今来た、未来へ戻ることは不可能だって。だ
って、未来は時事刻々と変わっているから、
過去に着いた時点で未来は、もう変わってし
まっているの。だから、もと来た未来へは戻
れない。結局、タイムトラベラーは時間の狭
間を彷徨うことになる訳。だから、タイムマ
シンは意味が無いそうよ」
 不思議な少女の話はまだ続いた。

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