2009年9月9日水曜日

極道女医『釜美』(7)

 礼子が凄むと、栗子は叩かれた頬を左手で
抑えて、小さくなった。

 栗子は礼子に脅されて、渋々、引き受けた
ものの、再度、釜美を騙す事はどうしても出
来なかった。
 翌日の放課後、栗子は釜美のいる美術室に
会いに行った。
 そして、礼子に脅されていると云う事を釜
美に包み隠さず打ち明けた。
「そうなの……。わかったわ、栗子さん。よ
く話してくれたわね。ありがとう」と釜美は
栗子の手を両手で包み込むように握手した。
「あたしに、名案があるわ。ええーとね。栗
子さんは、あたしを呼び出して、睡眠薬をあ
たしに飲ませるの。もちろん、睡眠薬の粉は
本物じゃなくて、砂糖か何かにすり替えて置
いてね。あたしは狸寝入りをするから。そこ
へ礼子の一味が現れたら、また、こてんぱん
にやっつけてやるわ」
 栗子は不安そうな顔をして、「あたし、礼
子を裏切って、復讐されないかな」と云った。
釜美は「ははは」と豪快に笑って、「その時
はあたしが守ってあげるわよ」と云った。
 栗子はその言葉を聞いて、少し、安心した。

 その晩、栗子は礼子に携帯で連絡した。
「礼子さん?明日の放課後、釜美を学校の近
くのもんじゃ焼き屋さんに誘う事にしたから
……」
「わかったわ。首尾は上々のようね。後はわた
し達に任せて」
 そういうと、携帯は切れた。
 とうとう、明日が釜美略奪の決行の日とな
ってしまった。礼子を裏切る事は怖かったが、
それ以上に釜美を裏切る事は出来なかった。

 翌日の放課後、栗子は釜美と一緒にもんじ
ゃ焼き屋『もんじゃりっこ』に行った。
 ここは、学校帰りの学生がよく、たむろし
ていた。
 もんじゃ焼き屋のおやじは「いらっしゃい。
お、栗子っち。試験終わったのかい?」と云
った。
 「やだなぁ、オロおじさん。試験なんか、
とっくの昔に終わってますよー」と、栗子
はべーっと舌を出した。
 店の中を見回すと、礼子とその仲間の男二
人が店の隅の方にいた。
 釜美はまだ、礼子の顔を知らないはずだ。
 礼子も今日が釜美を見るのは初めてのはず。
 栗子は、それとなく、釜美に、「あれが、
礼子よ」と教えた。
 釜実は「わかった」と頷き、栗子と話しを
している風を装った。
 そして、ジュースを飲んだ後、眠くなった
ように、うつらうつらとした。
 栗子は釜美が睡眠薬を飲んだ事を礼子に話
した。
 礼子は「わかったわ」と云うと、眠そうに
している釜美の方へ行った。
「あらぁ。釜美さんじゃなーい。こんな所で
寝たら、カゼひきますわよ。私の彼の車で家
まで送ってあげますわ」と、釜美を知らない
くせに、知人の如く振舞って、釜身を車に乗
せようとした。
 釜美はふら付きながら、礼子達に支えられ
て、店を出た。
 栗子も後をついて店を出た。
 店を出で、数歩歩いた瞬間に釜美はしゃき
っとして、礼子達の手を振り解いた。
「あなた達、あたしを何処へ連れて行こうっ
ていうの?」
 それを見た、礼子は唖然として、「栗子。
これはどういう事!?」と云った。
 栗子は借りてきた猫の様に小さくなって、
釜美の後に隠れた。
「あんた達も懲りないわねー。あなたが礼子
ね。許さないわよ」と釜美が云うと、礼子は
男二人に「やっちゃって」と云った。
 礼子の一言で、男二人が無言のまま、一斉
に釜美に襲いかかって来た。
 今度の男達は先日のチンピラと違って、な
かなか手強かった。
 釜美と間合いを取って、一人が襲いかかる
と、もう一人が波状攻撃をかけて来るといっ
た具合で、釜美は男二人に苦戦した。
 それでも、男達は何度も、釜美に投げられ
て、次第に消耗していった。
 遂に男達はドスの鞘を抜いて、釜美に切り
かかったが、それも、さらりとかわされてし
まった。
 次第に周りに野次馬が集まってきた。
 流石にやばいと思ったのか、礼子は男達に
「ちっ。引き上げるわよ!」と云うと、男二人は
礼子を庇うように、近くに停めてあった車に乗
り込むと、急発進をして去っていった。
 栗子は釜美が怪我をして居ないかと心配に
なり、「釜美さん、大丈夫?」と駆け寄った。
 釜美は額の汗を手の甲で拭いながら、
「ふー。行ったわね。今回はあたしも苦戦した
わ」と云った。
「ごめんなさい。釜美さん。何度も危ないめ
に会わせて。本当にごめんなさい」と栗子が
云うと、「大丈夫。これで、礼子も懲りたで
しょう。当分、ちょっかいを出して来ないと
思うけど」と爽やかに笑った。

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