2009年9月9日水曜日

たっくんの完全なる飼育(7)

 とりあえず、今日のところは帰ることにし
て、二人とも、帰路についた。
 翌朝、警察のほうから連絡があって、信君
と、署の方へ出向いた。
 警察の方から、家族の方へも連絡があった
みたいで、たっくんのお母さんらしき人も来
ていた。
 たっくんのお母さんらしき人は、あたし達
を見て、直ぐ友達とわかったのか、こちらの
方へ近づいてきた。
「あのう?皆さんは、内の息子のお友達です
か?」
「はい。そうです。同じサークル仲間なんです」
と、あたしは答えた。
「そうですか。このたびは内の息子がご迷惑
をかけて……」
 そう言うと、たっくんのお母さんは、嗚咽を
漏らして、泣き出した。
「あ。ごめんなさいね。わたしは、やち子と
言います。息子はめったに実家に帰って来な
いもんですから。まさかこんな事になってる
とは思いませんでした……」
 そう言うと、また泣き出した。
 そこへ、たっくんのお父さんらしき人もや
って来た。
「あ。朗愚のお友達の皆さんですか。本当に、
うちの馬鹿息子がご迷惑をかけて……」
 たっくんのお父さんは少し怒っているよう
に見えた。
 信君は片手を振りながら、「いいえ。迷惑
だなんて……。俺たちに出来ることは何でも
します」と言った。
 たっくんの両親は警察へ家出人捜索願を出
した。
 家出人にも種類があり、「一般家出人」と
「特異家出人」が、あるそうだ。
「一般家出人」は事件性の無いもの、「特異
家出人」は何か事件に巻き込まれた可能性の
あるものだそうで、たっくんの場合は、事件
性は無いものと見做され、一般家出人扱いを
された。
 一般家出人だと、警察の捜索はしないと言
われた。
 何か判ったら、連絡しますからと、警察の
人に言われ、たっくんの両親はがっくりと肩
を落として帰って行った。
 あたし達も仕方なく、帰路についた。
 
    ・・・・

 警察へ行って捜索願いを出してから、早、
一週間が過ぎようとしていた。
 あれから、警察の方からは何の連絡も無か
った。
 信君とあたしは、その後、何の手がかりも
掴めないまま、無為の日を過ごしていた。
 信君を誘って、再度、たっくんのアパート
へ行ってみた。
『ひょっとして、たっくんは、帰っているか
も』と、凡そ考えられない現実離れした期待
を胸にして……。
 ピンポーン。一応、ドアのチャイムを鳴ら
してみた。
 やはり、たっくんは帰っているはずも無か
った。
 たっくんのアパートの近くに喫茶店があっ
たので、信君と入った。
 入り口の看板には、『喫茶 観留』と書い
てあった。
 何だか、薄暗い店内だ。他に客は見あたら
なかった。
 あたし達は、入り口の近くのテーブルの椅
子に座った。
「いらっしゃいませ」
 店の奥から、およそ40代くらいのマスター
と思しき人がやって来た。
 男は愛想の無い顔で、「何に致しましょう?」
と、ぼそっと言った。
 マスターからメニューを受け取って見ると、
メニューの種類がとても少なかった。
 信君とあたしは、取り合えず、ホットコー
ヒーを頼んだ。
 間もなく、男はホットコーヒーを二つ持っ
て来た。
 ここのマスターなら、何かたっくんの事を
知っているかも知れないと思い、だめ元で聴
いてみた。
「あのう?この近くに住んでいる、若い男の
子で竹部朗愚っていう子が居るんですけど、
知ってますか?」
 男は、しばらく考えていたが、「ん~。ち
ょっと判らないなぁ」と、言った。
 予想していた答えが返ってきた。
 コーヒーを飲みながら、信君と、これから
どうするか話しあった。

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