2009年9月9日水曜日

極道女医『釜美』(9)

 釜美の執刀に依り、少女は一命を取り留め
た。
 手術後にオペ室を出ると、少女の親族が誰
も来ていなかった。不審に思い、事務局に問い
合わせてみた。
 事務局の話だと、少女の両親には親戚が居
なかった。
 少女の名は序衿栗。
 父親の名は序衿理恵男。
 少女の母親の名は序衿ようこ。

 後からわかった事なのだが、
 母親のようこの結婚前の国籍は中国。
 ようこは出稼ぎで日本のスナックで働いて
いた。本国の母親へ送金をしていたようだが、
その母親も亡くなり、送金の必要は無くなっ
た。
 本国の母親を亡くし、悲嘆に暮れていた頃、
スナックへ客として来ていた、少女の父親と
出合い結婚をした。

 父親の序衿理恵男は日本人だが、兄弟は
居なかった。
 ようこと結婚する時も、両親の反対に会い、
駆け落ち同然に結婚をした。
 その父親の両親も今はもうこの世にいない。
 手術後の翌日、少女の意識は戻った。
 看護士の理容子から、少女の意識が戻った
と聞かされ、急いで少女の病室へ駆けつけた。
(看護士の理容子は高校時代の同級生だ。
 偶然にも同じ大学病院に勤務することにな
った)

 少女の病室へ入ってみると、少女はベッド
の中で起きていた。
 少女は病室に両親がいない事に気づいた。
「ねぇ。お父さんとお母さんは?」
 釜美に聞いてくる、あどけない表情を見て
いると、どうしても本当の事は言えなかった。
「あのね。栗ちゃん。お父さんとお母さんも
怪我をしてね、今は別の病室に居るの」
 釜美の返事を聞いて、栗は泣き出した。
「お父さんとお母さんに会いたい!」
 少女の涙が、頬を伝わって、枕を濡らした。
「お父さんとお母さんには、栗ちゃんが良く
なれば、会えるから。ねっ」
 とりあえず、嘘を言わなければならない現
実が悔しかった。
 少女は泣き止み、「本当に?」と釜美に云
った。釜美は「本当よ。先生が約束する」と
云って、少女の涙をハンカチで拭ってあげた。
 釜身は医務室へ戻り、少女の退院後のこと
を考えた。
 少女には兄弟も無く、天涯孤独の身となっ
たことになる。
 少女のこれからの人生を考えると不憫でな
らなかった。
 釜美の少女時代も不遇だった。
 両親の実家が暴力団だったばっかりに、孤
独な中学時代を送った。
 頼れる人や仲間が居ないと言う事がどんな
に辛い事か良く知っていた。
 本来は施設へ入れるべきなのかも知れない
が、なんとか少女の身柄を引き取りたいと思
った。

0 件のコメント:

コメントを投稿