2009年9月9日水曜日

たっくんの完全なる飼育(14)

 それだけでも、進展があった。
「まだ、諦めるのは早いわ。まだ、このビル
にいるか、もしくはそう遠くへは行ってない
はずよ。探しましょう」と理容子は云った。
 理恵は「そうね」と頷くと、理容子と一緒
に、更に下の階を探した。
「おかしいわねー。あの女の気配を全く感じ
ないわ」と理容子は云った。1階まで、降り
て来たが、女の気配は感じ無かったようだ。
「ちょっと、外へ出てみましょう」と理容子は
云った。
 二人は外へ出ると、キョロキョロと辺りを
見回した。
 すると、またしても、理容子が女を発見し
た。
「居たわ!こっちよ!」
 そう言うと、理容子は駆け出した。
 理恵も後に続いた。
 女は横断歩道の所で信号待ちをしていた。
 理恵達は、信号待ちをしている女の背後へ
近づいた。
 理恵は女の横顔を間近で見た。
 理容子が言ったように、20代後半と見ら
れる女だった。顔はとびきり美人という程で
もないが、まあまあの顔立ちと云う所か。
 髪はロングでカールヘアー。
 身なりは派手でも無く、地味でもないごく
普通のOL風の格好をしていた。
 理恵はこっそり、ケータイで女の横顔を写
真に撮った。
 理容子はさり気なく、女の背後に立って、
「あら、ごめんなさい」と云って、ちょっと
よろめくように女に接触した。
 女は「いいえ」と云った。
 女に接触した理容子の顔が驚愕の顔に変わ
った。
 理容子は理恵の耳元で小声で云った。
「この女が竹部さんを誘拐して、監禁してい
るわ」
「え?まさか!?本当なの?」
 理恵は咄嗟に言葉が出なかった。まさか、
監禁なんて。しかも、女が男を……。もし、
そうだとすると、これは立派な犯罪だわ。早
く警察に届けなくてはと思ったが、証拠が無
い。
「共犯者はいるの?」と聞いたが、単独犯だ
という返事が返って来た。
 理容子は続けた。「あたしも驚いたわ。接
触した途端に、竹部さんの監禁されている姿
が、脳裏に浮かんだわ。とにかく、この女を
尾行しましょう」と云った。
 二人は女に気づかれないように尾行をする
ことにした。
 女は横断歩道を渡って、バス停でバスを待
っていた。
 理恵たちも同じく、バスを待った。
 やがて、バスが来て、女はバスに乗った。
理恵たちも、後に続いて、バスに乗った。
 理恵たちは、女が座ったシートの少し後ろ
に座って、女を監視した。
 しばらくバスに乗っていると、女が降りる
用意をしだしたので、理恵たちも後を追って、
降りた。
 女はバスを降りると、商店街の方へ歩いて
行った。
 女は八百屋に入った。何か、店主と話して
いるようだ。
 しばらくすると、八百屋から女は出て来た。
 再び、理恵たちは、女に気づかれないよう
に後を追った。
 女はマンションに着くと、中に入って行っ
た。
 マンションは他人が入れない様になってい
るセキュリティマンションだった。
 これ以上、中の様子を確かめる事は出来な
かった。

 仕方が無いので、理恵たちは先ほど来た道
を引き返して、先ほど、女が入って行った商
店街の八百屋へ行った。
 八百屋の看板には、『檻商店』と書いてあ
った。
 八百屋に入ると、先ほどの店主が出て来た。
 八百屋のおやじは、「いらっしゃい。きゅ
うりが安いですよ」と云った。
 理恵はおやじに聞いた。
「あのう?つい先ほど、若い女の人が買い物
をして行ったと思うんですけど。ロングヘアー
の女の人なんですけど……」と云うと、おや
じは「あっ。ようこちゃんの事かい?」と云
った。
「名前は解からないんですけど、ようこさん
と言うんですか?」
 おやじは怪訝そうな顔をして言った。
「あんた達の聞いてるのは、この先のマンシ
ョンに住んでる、ようこちゃんの事じゃ無い
のかい?」と云った。
「あっ。そうそう、ようこさんだった」と、
理恵は咄嗟に誤魔化した。
「で、ようこちゃんに何か用かい?」と聞い
て来たので、もう良いですと言って、店を出
た。
 理恵たちは、たっくんの居場所をとうとう、
突き止めた。謎の女の名前は『ようこ』。 
そして、あのマンションの中には、たっくん
が監禁されているに違い無かった。

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