2009年9月9日水曜日

たっくんの完全なる飼育(11)

 理容子はそんな理恵を見て、気の毒に思っ
たのか、「ちょっと、外へ出てみましょうか。
何か手掛かりになる物があるかも知れないわ」
と言った。
 理容子は喫茶店を出た。
 理恵、利美と信も後に続いた。
 理容子は歩きながら、話した。
「強烈な記憶を刷り込まれた物体は、遠く離
れていても、その思念を感じることがあるの。
だから、このあたりで、竹部さんの何か手掛
かりになる物が見つかるかも知れないわ」
 歩きながら話していると、理容子の足が急
に止まった。
「向こうの方に竹部さんの思念を感じるわ」
 理恵は、たっくんがこの近くに居るのか?
と思った。
「本当ですか?」
 理恵は理容子の顔を覗き込んで、尋ねた。
 近くには川が流れていた。
「こっちの方よ」
 理容子は橋の方に向かって、早足で歩いて
行った。
 理恵達も理容子の後を追った。
 理容子は橋の欄干の所で立ち止まった。
 手摺に触った。
「ここで竹部さんは川を眺めていたわ」
 理容子は続けた。
「ここで感じるのは竹部さんの悲しみ・自責・
不安・孤独……」
 それを聞いて、理恵ははっとした。
 あたしのせいでたっくんを追い込んでしま
ったと思った。
 不意に熱いものが込み上げてきた。
 涙が自然に出て来た。
「うわーん。たっくん。ごめんなさい」
 信は理恵が泣くのを見て、「そんなに、自
分を責めるなよ」と、優しく慰めた。
 理容子は続けた。
「竹部さんはここで、ひがな一日、川を眺め
ていたわ。それと、先ほど、喫茶店で感じた、
女の人とも、ここで一緒にいたわ」
 理恵は、またもや、謎の女かと思った。
「また、女の人ですか?その人はたっくんと
一緒に居るんですか?」
「ええ。竹部さんは、女の人とここで会って、
それから、喫茶店に行ったみたいね」
「そうですか。他に何か解かりますか?」
 理容子は欄干を触わりながら言った。
「竹部さんは、その女の人と何度か会ってい
ます……。残念ながら、解かるのは此処まで
です」
 理容子は申し訳なさそうに言った。
 理恵は涙をハンカチで拭うと、「ううん」
と首を振って、「ありがとう。すごく参考に
なったわ」と理容子に礼を言った。
 理容子は「あたしで良ければ、いつでも御
協力します。また呼んでください。今日のと
ころはこれで……」と言った。
「うん。ありがとう。またね」と、理恵は別れの
挨拶をすると、理容子は帰っていった。
 利美も用事が在るからと言って、帰った。
 信君と二人になり、謎の女の事を話した。
 二人の意見は、たっくんの失踪は、謎の女
が絡んでいるという事で一致した。
 はたして、その女は何者なのか?
 手繰り寄せた糸は、またしても、ここで、
ぷっつりと切れてしまった。

0 件のコメント:

コメントを投稿