2009年9月9日水曜日

たっくんの完全なる飼育(13)

 理恵は焦っていた。理容子から聞いた、た
っくんの状態を考えると、一刻の猶予も許さ
れないのではないだろうか?
 こうしている間にもたっくんの身の上に何
か起こっているかも知れない。
 理恵は居ても立ってもいられなかった。
 理容子から、たっくんの状態を聞いてから、
はや一週間が過ぎようとしていた。
 その間、何の手掛かりも無かった。
 たっくんが失踪してから、1ヶ月近くが過
ぎようとしていた。
 一緒に街中を歩いて、たっくんの痕跡を探
して貰うように、理恵は再び、理容子に頼ん
だ。
 理容子は快く応じてくれた。
 今度の日曜日に、三宮駅の前で、会う約束
をした。

 理恵は約束の時間に三宮駅前に行った。
 少し待っていると、向こうから、歩いてくる
理容子が見えた。
「ごめんなさい。待った?」
 理容子はそう言いながら、こちらに近づい
て来た。
「ううん。あたしも今、着いたところだから。
何処を探せばいいか解からないけど、ちょっ
と、あちらの方へ行ってみましょうか?」
 理恵は理容子と二人で街中を歩き廻った。
 理容子は人ごみの中は苦手らしく、始終、
緊張した面持ちで歩いていた。
「理容子さん。ごめんなさい、休みの日だと
言うのに、こんな事につき合わせてしまって」
 理恵は理容子に対して、申し訳ないと思った。
 理容子は首を横に振った。
「ううん。あたしは理恵さんに協力したいの。
あたしも乗りかかった船だもの。竹部さんが
一日も早く見つかるといいわね」
「理容子さん。ありがとう……」
 理恵は理容子の言葉に胸が熱くなった。

 午前中、あちこちを歩き廻ったが、何の手
掛かりも掴めなかった。
「お腹が空いたわね。ちょっと、そこのレス
トランで食事をしましょうか?」
 理恵は前方に見えるファミレスで理容子と
食事をする事にした。
 食事をしながら、理容子は言った。
「あたし、人ごみの中はすごく苦手なの。人
が多い所は、直接接触しなくても、他人の想
念が流れ込んでくるので、常に緊張して、気
を張っていないといけないの」
「そうなんだ?ごめんなさい。こんな所へ連れ
出して」
「ううん。理恵さんの為だもの」
 理容子は微笑んだ。今日初めての笑顔かも
知れない。本当に申し訳ないと思った。
「まだ、何の手掛かりも掴めないわね。あた
し、家に一人で居ると、たっくんの事を考え
て、気が変になりそうなの。何もしないでい
るよりは、こうして動いていた方が、気が楽
なの」
 二人は食事を終えて、近くのデパートへ入
った。
 何かを買う訳でも無いが、洋服などを見て
いた。
 ふいに、理容子が理恵の袖を引っ張った。
「ね!理恵さん。あの女よ!」
「え!?何?」
 理恵が指さす方を観ると、遠方に女の人が
見えた。遠くて顔は良く見えなかった。
「あの女よ!喫茶店と欄干で見えた女」
 理恵は、こんな所で、謎の女が見付かると
は思っても居なかったので、びっくりした。
「え?本当なの?」
 理恵が指さす女はエレベータに乗ろうとし
て居た。
 理恵達は急いで、女の方を目指して駆け出
した。
 女はエレベータに乗ってしまった。
 理恵達が追いついた頃にはエレベータは閉
まって、階下へ降りて行ってしまった。
 エレベータは理恵達が居る8Fから、6F
で止まった。
 急いで、走って、エレベータの近くの階段
を6Fまで下りた。
 二人とも、はあはあと息を切らしながら、
6Fのエレベータ付近を見渡した。
「ねえ。あの女はいるかしら?」
 理恵はあたりをきょろきょろと見回しなが
ら、理容子に聞いた。
「あの女の気配を感じないわ。見失ったみた
いね」
 理容子は残念そうに言った。
 またしても、手掛かりを失ったように思え
たが、意外にも、謎の女はこの近辺に居ると
いう事が解かった。
 それだけでも、進展があった。

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