2009年9月22日火曜日

霊感修学旅行(6)

 朝、目覚めると、私は、布団の中で眠って
いました。
 周りにクラスメートの由美子や、みんなも
寝ています。
(良かった。あれは、夢だったんだ)
 目が醒めて、牢屋の中じゃなかった事に、
心底、安心しました。
 それにしても、妙にリアルな夢でした。
 夜中に起きた時に聞いた、誰かが歩く音は
鎧武者が歩く音と同じでした。昨夜の夢と、
何か関係がありそうです。

 旅館の食堂で、朝食を食べながら、昨夜の
事を由美子や夏子、幸江に話しました。
「昨夜ね。廊下で重い足音がしたんだけど。
あれは、絶対、鎧武者の足音よ。間違いない。
私、あの後、変な夢を見たのよ」
「ようこに起こされて、トイレに付き合った
んだけど。何も聞こえないし、誰もいなかっ
たわよ。ようこ、寝ぼけていたんじゃない
の?」由美子は私をからかうように言いなが
ら、手前のたくあんを、お箸につまむと、ポ
リポリと音をたてて食べています。
「本当だって!あの後、すぐ寝たでしょ。そ
れで、私、変な夢を見たのよ。妙にリアルな
夢だったわ」
「変な夢って、どんな夢?」味噌汁をすすり
ながら、幸江がおっとりした様子で聞きまし
た。
「それがね。私は、和室のある一室にいるの。
鎧甲冑を着た、戦国武将がどやどやと廊下を
走ってくるのよ。その大将が鳥居元忠で、私
は危うく、刀で切られるところだったの。そ
れで、牢屋に入れられちゃったのよ」
 ここまで、一気に言うと、みんなは笑いだ
しました。
「あはは。ようこ。その夢、面白い」
 夏子は可笑しくてしょうがないといった様
子で、テーブルを叩いています。
「笑い事じゃーないのよ。妙にリアルだった
んだから。もしかしたら、私、タイムスリッ
プしたのかも?」
「そんな訳ないじゃん。あはは」夏子は腹の
皮が捩れるーといって、お腹を抱えて笑って
います。
「本当だってばー」私が真面目に言えばいう
程、みんなは笑います。
「もういいよ!信じて貰えなくても!」私が
頬をぷーっと膨らませていうと、みんなの笑
いはやっと止まりました。
「ようこ。思い入れが激しいから、そんな夢
見るんだよ。もっと、気楽に行こうよ」と由
美子は私の横で、肩をポンと叩きました。
「今日さぁ~。興聖寺に行くの、よそうよ。
宇治の甘味処だけ、行こうよ~」
 私がいうと、夏子はとんでもないという様
子で、「だめ!最後のコースなんだから、絶
対、見なくちゃ、だめよ」と、お箸を持った
まま、手を横に振っています。
「どうなっても、知らないから!」私は怒っ
ていうと、みんなは、まじ?という様子で私
を見ました。
「大丈夫よ。何も起きないわよ。最後の日程
なんだから、気楽に行こうよ。ね?」
 由美子が私をなだめると、それ以上、私は
何も言えなくなって、しぶしぶ了承しました。

 朝食を終えた私達四人は、旅館のロビーに
集合すると、今日の日程を確かめました。
 夏子が地図を広げて、興聖寺の場所はここ
よと指し示しました。
 電車で、京都駅から宇治駅まで、三十分程
です。さらに、宇治駅から歩いて、三十分程
の所に興聖寺はあります。コースとしては、
興聖寺に見学に行った後、駅周辺の甘味処に
行く予定です。
「さあ。今日も元気に行ってみよー!」と夏
子は右手の拳を振り上げました。
 私は、何も起きなければ良いがと、気乗り
のしないまま、みんなの後を付いて京都駅ま
で歩いて行きました。

 程なく、宇治駅に着くと、地図を見ながら、
川沿いの道を歩いて、やっとの事で、一行は
興聖寺の入り口の古びた門に着きました。
「夏子、ここ遠いじゃん」幸江はへなへなと
川べりの堤防に寄りかかりました。
「ちょっと、遠いわねえ」夏子も疲れた様子
でいうと、「もう直ぐよ。さぁ。ファイト」
といって、興聖寺の参道を歩いて行きました。
 
 まもなく、竜宮城のような門が見えて来ま
した。そこから、本堂の中に入り、血天井を
見学しました。ここにも、シミのある天井板
に、人間の手の跡や、足の跡が付いています。
 夏子はここでも、パチパチと写真を撮って
います。
 今回は、時間も無いので、早々に本堂を出
て、帰りました。
 帰りに、私達四人で、竜宮城のような門を
くぐる時に、異変を感じました。
 何か目が廻るような感じになって、ふと、
気づくと、私達四人は、見たことのある、和
室の一室に居ました。
「あれ?ここ何処?」夏子はきょとんとして
います。みんなも一様に何が起きたのか解ら
なく、茫然としています。
 ここは、紛れも無い、夢で見た、あの和室
の所です。私は驚きで、一言も喋れません。
 あの悪夢が再び、現実となったのです。し
かも、今回は友達も一緒です。
「あわわわ。ここ。ここよ。私が夢に見たの
は!」私は、必死にみんなに説明しました。
「ええーー!?」由美子も夏子も幸江も、目玉
が飛び出しそうな勢いで驚いています。
「これは夢じゃ無いのよ!現実なのよ!ここ
は鳥居元忠達が自刃した伏見城の中なの
よ!」
「何でそんな事が起きるの!在りえない
わ!」由美子がいうと、「そうよそうよ」と、
他の二人も追随しました。
「とにかく、現実にこうして、起きているん
だから、仕方ないじゃん」私は途方に暮れて
言いました。

 お城の外から、「わぁわぁ」と人の怒号が
聞こえてきます。お城のあちこちで火災が発
生しているようです。
 事態は私が昨夜、見た時よりも更に悪くな
っているようでした。


             つづく

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