2009年9月9日水曜日

たっくんの完全なる飼育(6)

  第二章 失踪

 たっくんと連絡が取れない。大学へは、こ
この所来てないようだし、ケータイに電話し
ても出ない。このあいだ、たっくんとは、ほ
んの些細な事で喧嘩をして、ずっと電話をし
ていない。
 あたしのほうから、謝るのも悔しいし、ず
っと、放っておいたんだけど、この一週間ほ
ど、大学へも来てないし。
 どうしたんだろう?
 たっくんの家へ行ってみようかしら?
 と、言っても、たっくんの家は知らないし
……。
 そうだ。信君に一緒に行って貰おう。
 彼なら、たっくんの住んでいる所を知って
いるに違いない。
 来流 信、彼はたっくんの親友で、同じサ
イクリング同好会の仲間で、たっくんの親友
だ。あたしも、その同好会に入っている。
 たっくんとは、その同好会で知り合った。
 あたしは、サイクリング同好会に顔を出し
た。
 信君は自転車の手入れをしていた。
「信君。こんにちは」
 信君は手入れを止めて、こっちを向いた。
「やぁ。理恵ちゃん。おひさ。どうしたんだ
い、最近、顔を出さないで。そうか、竹部と
のデートが忙しくて、それどころじゃないん
だな?たまには、こっちへも来なくちゃだめ
だよ」
 信君は笑いながら言った。
 信君なら、たっくんの事、何か知ってるか
も知れない。
「ねぇ、信君」
「ん。なんだい?」
「たっくんが、最近、大学へ来ないんだけど、
電話へも出ないの。どうしちゃったのかな?
信君、何か知らない?」
「え?理恵ちゃんの電話にも出ない?
 俺も、あいつに電話したんだけど、ぜんぜ
ん出ないんだ」
 信君の電話にも出ないなんて、おかしいと
思った。
「あのう。それはいつからなんですか?」
「一昨日かな。何度も電話したんだけど、出
ないんだ」
「どうしちゃったのかな?たっくん」
「そうか、理恵ちゃんの電話にも出ない
なんて、こりゃ、ちと、おかしいな」
「あたし、たっくんと喧嘩して、何日も口をきい
てなかったの。どれで、電話にも出てくれない
のかと、思ってたんだけど。大学にも出てこ
なくなっちゃって……」
 さっきまで、笑っていた信君は真面目な顔
になって言った。
「そうか、あいつ、どうしたんだろうな?よ
し、これから直ぐ、あいつのアパートに行っ
てみよう。理恵ちゃん、これから、大丈夫?」
 あたしはこっくりと頷くと、信君と一緒に、
たっくんのアパートへ向かった。
 たっくんのアパートは姫路駅から、徒歩2
0分程の所にあるらしい。
 姫路駅の改札を出て、信君と歩いていると、
橋が見えて来た。
 たっくんのアパートはこの橋の近くにある
らしい。
 橋を渡って、ちょっと歩くと、商店街にな
った。
 街中をてくてくと歩いていると、アパート
が見えて来た。
「ここだよ。竹部のアパートは」
 そこには、二階建てのどこにでも見かける
ようなアパートがあった。
 信君がアパートの階段を昇っていったので、
あたしも後に続いた。
 たっくんのアパートの扉の前のポストには、
新聞が何日分か、無造作に突っ込まれていた。
 入りきらない分は扉の前に置かれていた。
「ピンポーン」信君はチャイムを鳴らした。
 たっくんの出てくる様子はない。再度、鳴ら
してみたが、やはり出てこない。
 中の様子は伺いしれないけど、人の居る気
配がまるで無い。
「理恵ちゃん。これは、おかしいぞ」とあた
しに向かって言った。
 あたしは、何がなんだか、分からなくなっ
た。半べそをかきながら、信君に言った。
「どうしよう?信君。あたしのせいで、たっ
くんが自殺でもしていたら?」
 信君は真剣な表情で言った。
「おいおい、縁起でもない事、言うなよ。と
りあえず、不動産屋さんに連絡してみよう」
 信君はアパートの立看板にある、電話番号
を見て、ケータイで電話した。
「はい。そうなんです……。はい……。わか
りました、お待ちしてます」
 信君はケータイを切ると、「すぐ、不動産
屋の人がこっちへ来てくれるって。ちょっと、
ここで待っていよう」と言った。
 まもなく、不動産屋の車が来た。中から、
不動産屋の社員が降りてきた。
「お待たせしました。おろおろ不動産の裸婦
羅です。竹部様の203号室ですね」
 そう言うと、おろおろ不動産の社員は二階
への階段を昇って行った。
 あたし達も後に続いた。
 ガチャッ
 たっくんの部屋の扉が開いて、社員は中に
入って行った。
「ごめんください?」
 部屋の中は空だった。
 恐れていた、最悪の事態は回避できたけど、
たっくんは何処へ行ってしまったのだろう?
 あたしは信君に言った。
「どうしよう?たっくん、いない……。まさ
か、自殺?」涙がポロポロと頬を伝わった。
「おいおい。とりあえず、警察へ連絡してみ
よう」
 不動産屋の社員も困った顔をしていた。
 とりあえず、礼を言って、帰ってもらった。
 しばらくすると、今度は警察のパトカーが
やってきた。
 中から、警察官二名が降りて来た。
「ここですか。竹部さんのアパートは?」
 信君が経緯を説明した。警察官の質問に答
えていると、周りは薄暗くなって来た。
 とりあえず、今日のところは帰ることにし
て、二人とも、帰路についた。

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