2009年9月9日水曜日

極道日記(10)

 その夜遅く、キャバクラ『栗』へ檻々組の
信がやってきた。
「あら、信さん。いらっしゃい」
 信は松葉杖をついていた。白いギプスが痛

しかった。
 今日の信はいつに無く、真剣な顔をしてい
た。どうしたのかしら、信さん。怖い顔をし
て。
「信さん。怖い顔をして、どうしたんですか
?」
「あ、すまん。実はな急な話で申し訳ないん
だが、どうしても、ママに手伝って欲しい事
があるんだ」
 信はドア付近に立ったまま、神妙な顔つき
で話しだした。
「あ。ごめんなさい。足が悪いのに、こんな
所で立ち話をしちゃって。ささ、こちらへど
うぞ」
 信に店のソファーを勧めた。信は言い難そ
うに話だした。
「実は、明日、Dear風呂を急襲することが決
まったんだ」
 とうとう、Dear風呂との全面戦争が始まる
のね。この先、檻々組はどうなってしまうん
だろう。
 怖くて、ガタガタ身震いがしだした。
「そう。何時かは、こうなるんじゃないかと
思ってはいたけど。でも、急な話ね」
「そうなんだ。観留に続いて、理恵男も殺ら
れたようなんだ」
 いきなり、理恵男の話がでて、栗は驚いた

「え!?今なんて……。理恵男も……」栗は絶
句した。信の口から出た言葉は衝撃的内容だ
った。
「そうなんだ。理恵男はDear風呂の美湯ママ
を狙って、鉄砲玉となったんだが、失敗した
らしい。その後、音沙汰が無いんだ」
 驚くべき言葉が信の口から発せられた。急
には信じられない内容だった。うそだと思い
たかった。
「ね!信さん、うそでしょ?!理恵男が死んだ
なんて、うそよね!?」栗は信の腕を掴んでガ
クガクと揺さぶった。
 信は顔を背けて言った。
「いや、本当なんだ。済まない……。栗ママ

 いやー!理恵男が死んだなんて……。とて
も信じられない。栗は携帯で理恵男に電話し
た。出ない……。いつもは、すぐ携帯に出る
子なのに、出ない……。
 しばらく、呼び出していたが、何時までた
っても、理恵男は出てこない。携帯の呼び出
し音が虚しく聴こえるだけだ。
 栗は携帯を投げ出して、ワーッっとソファ
に突っ伏した。
「栗ママ……」
 ソファにうつ伏せのまま、泣いている栗に

信は優しく背中をさすった。
「こんな時に、こんな事をお願いするのは非
常に辛いんだが、理恵男の弔い合戦だと思っ
て、ここは栗ママにぜひ、協力して欲しい事
があるんだ」
 栗は泣きながら、信の話を聞いた。
「で、どんな事をすればいいんですか?」
「やってくれるか?ママ。明日、Dear風呂組
を急襲するんだが、先立って、ママは何人か
店の子を連れて、Dear風呂組の客となって欲
しいんだ。
 そして、店内の様子を見計らって、俺達を
誘導して欲しいんだ」
 栗は信の話を聞いて、理恵男の弔い合戦だ
と思い、承諾した。
「わかったわ。明日、先に私たちがDear風呂
へ行って、干す徒達をひきつけておくわ」

   ・・・・

 栗ママは店の子に事の成り行きを説明した

協力してくれる子を募ったところ、利美と、
先日入店した、新人のやっちん、ルミの三人
が申し出てきた。

   ・・・・

 ここで、新人さんの紹介です。
 キャバクラ『栗』に先週、二人の新人が入
店しました。
 ―― キャバ嬢 やっちん
 ルミの友達である。二人は同じ大学の
同級生だ。何かお金に成るバイトは無
いかと探していた時に、一度、ルミから、お
兄さんが通っていると聞いたキャバクラを思
い出し、ルミと一緒に面接に行き、バイトが
決定した。
 エッチ大好きで、キャバ嬢は天職になるか
も、と思っているようだ。
 また、武道も嗜み、空手三段の腕前だ。

 ―― キャバ嬢 ルミ
 亡くなった観留の妹である。
 観留とルミは仲の良い兄妹だった。
 Dear風呂組を恨み、いつかは仕返しがした
いと思っていた。
 生前、兄が親しく通っていた、キャバクラ
『栗』を思い出し、入店した。
 Dear風呂組の干す徒が来るかも知れないと
思い、復讐の機会を密かに伺っていた。

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