その夜遅く、キャバクラ『栗』へ檻々組の
信がやってきた。
「あら、信さん。いらっしゃい」
信は松葉杖をついていた。白いギプスが痛
々
しかった。
今日の信はいつに無く、真剣な顔をしてい
た。どうしたのかしら、信さん。怖い顔をし
て。
「信さん。怖い顔をして、どうしたんですか
?」
「あ、すまん。実はな急な話で申し訳ないん
だが、どうしても、ママに手伝って欲しい事
があるんだ」
信はドア付近に立ったまま、神妙な顔つき
で話しだした。
「あ。ごめんなさい。足が悪いのに、こんな
所で立ち話をしちゃって。ささ、こちらへど
うぞ」
信に店のソファーを勧めた。信は言い難そ
うに話だした。
「実は、明日、Dear風呂を急襲することが決
まったんだ」
とうとう、Dear風呂との全面戦争が始まる
のね。この先、檻々組はどうなってしまうん
だろう。
怖くて、ガタガタ身震いがしだした。
「そう。何時かは、こうなるんじゃないかと
思ってはいたけど。でも、急な話ね」
「そうなんだ。観留に続いて、理恵男も殺ら
れたようなんだ」
いきなり、理恵男の話がでて、栗は驚いた
。
「え!?今なんて……。理恵男も……」栗は絶
句した。信の口から出た言葉は衝撃的内容だ
った。
「そうなんだ。理恵男はDear風呂の美湯ママ
を狙って、鉄砲玉となったんだが、失敗した
らしい。その後、音沙汰が無いんだ」
驚くべき言葉が信の口から発せられた。急
には信じられない内容だった。うそだと思い
たかった。
「ね!信さん、うそでしょ?!理恵男が死んだ
なんて、うそよね!?」栗は信の腕を掴んでガ
クガクと揺さぶった。
信は顔を背けて言った。
「いや、本当なんだ。済まない……。栗ママ
」
いやー!理恵男が死んだなんて……。とて
も信じられない。栗は携帯で理恵男に電話し
た。出ない……。いつもは、すぐ携帯に出る
子なのに、出ない……。
しばらく、呼び出していたが、何時までた
っても、理恵男は出てこない。携帯の呼び出
し音が虚しく聴こえるだけだ。
栗は携帯を投げ出して、ワーッっとソファ
に突っ伏した。
「栗ママ……」
ソファにうつ伏せのまま、泣いている栗に
、
信は優しく背中をさすった。
「こんな時に、こんな事をお願いするのは非
常に辛いんだが、理恵男の弔い合戦だと思っ
て、ここは栗ママにぜひ、協力して欲しい事
があるんだ」
栗は泣きながら、信の話を聞いた。
「で、どんな事をすればいいんですか?」
「やってくれるか?ママ。明日、Dear風呂組
を急襲するんだが、先立って、ママは何人か
店の子を連れて、Dear風呂組の客となって欲
しいんだ。
そして、店内の様子を見計らって、俺達を
誘導して欲しいんだ」
栗は信の話を聞いて、理恵男の弔い合戦だ
と思い、承諾した。
「わかったわ。明日、先に私たちがDear風呂
へ行って、干す徒達をひきつけておくわ」
・・・・
栗ママは店の子に事の成り行きを説明した
。
協力してくれる子を募ったところ、利美と、
先日入店した、新人のやっちん、ルミの三人
が申し出てきた。
・・・・
ここで、新人さんの紹介です。
キャバクラ『栗』に先週、二人の新人が入
店しました。
―― キャバ嬢 やっちん
ルミの友達である。二人は同じ大学の
同級生だ。何かお金に成るバイトは無
いかと探していた時に、一度、ルミから、お
兄さんが通っていると聞いたキャバクラを思
い出し、ルミと一緒に面接に行き、バイトが
決定した。
エッチ大好きで、キャバ嬢は天職になるか
も、と思っているようだ。
また、武道も嗜み、空手三段の腕前だ。
―― キャバ嬢 ルミ
亡くなった観留の妹である。
観留とルミは仲の良い兄妹だった。
Dear風呂組を恨み、いつかは仕返しがした
いと思っていた。
生前、兄が親しく通っていた、キャバクラ
『栗』を思い出し、入店した。
Dear風呂組の干す徒が来るかも知れないと
思い、復讐の機会を密かに伺っていた。
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