2009年9月9日水曜日

極道女医『釜美』(4)

 この時、釜美に魔の手がひたひたと押し寄
せている事を本人は知る由も無かった。

 高部は家に帰り、姉の栗子に、今日、美術
部で褌一丁でモデルにされたことを話した。
 高部の姉、栗子は高部とは年子で同じ高校
に通う三年生だ。スポーツ万能で国体にも出
たことがある。
 今は陸上部の部長を引退し、受験勉強に勤
しんでいた。
 スポーツ万能で勉強も出来る姉を弟は尊敬
していた。
 弟はちょっと、シスターコンプレックスの
所もあるが、いつも、姉に相談を持ちかけて
いた。
 学校から帰ると、今日あった出来事を早速

姉に報告しに姉の部屋へ行った。
 受験勉強をしているであろう、姉の部屋の
ドアをノックした。
「お姉ちゃん。ちょっと、いいかな?」
「はーい」と部屋から返事があった。
 部屋に入ると、姉は机に向かって勉強して
いた。
「お姉ちゃん。今日、僕、とっても恥ずかし
い事をされたんだ」
 栗子は勉強の手を休め、くるりと椅子を回
して、弟と向き合った。
「何?恥ずかしい事って?」
 弟は言いにくそうに、もじもじしながら
「うん。それでね……」と恥ずかしそうに、
美術室で起きた、事の成り行きを姉に説明し
た。
「まあ?そんな辱めを受けたの?」
「うん」
「その部長の釜美っていう子はふてぶてしい
女ね。朗具をそんなめに逢わせて……」
 栗子は何か思案していたが、しばらくする
と弟に云った。
「わかったわ。お姉ちゃんに任せなさい。そ
の釜美っていう子をぎゃふんと言わせてあげ
るわ」
 弟は慌てて、姉に云った。
「お姉ちゃん、ダメだよ。釜美は暴力団の娘
なんだよ。仕返しに何されるか、わかんない
よ!」
「そうなの?わかったわ、お姉ちゃんに任せ
なさい」
「お姉ちゃん、あんまり、無茶しないでよ」
 弟は心配そうに、姉の部屋を後にした。

   ・・・

 弟の話を聞いた栗子は中学時代の同級生の
鯛弐礼子を思い出した。
 礼子の家もやくざだったのを思いだした。
 電話帳で調べ、何年振りかで電話してみた

 しばらくすると、野太い男の声で、「はい

鯛弐建設」と受話器から聴こえた。
「あのう?高部と云いますが、礼子さんいま
すか?」というと、「あ、お嬢ですか」と云
った。
 受話器の向こうで「お嬢」と礼子を呼
んでいるのが聴こえる。
「はい。礼子です」
 礼子が出た。
「礼子?久しぶり。元気?」
「うん。超久しぶりだねー。元気?どうし
たの?」と礼子の声は弾んでいた。
「あのね。ちょっと、相談に乗って欲しい事
があって……」
「そうなんだ。わかったわ。暴阿組には、
あたしも頭に来てるのよ。その釜美って
いう子、うちの若い者使って、とっちめて
やるわ」

   ・・・

 釜美は何時ものように放課後、美術室で絵
を描いていると、高部の姉がやって来た。
「釜美さん。うちの弟がいつもお世話になっ
ております。ちょっと、お話があるんですが
……」
 釜美は「何でしょうか?」と云った。
 釜美は高部の姉と話すのは、この時が始め
てだった。
「はじめまして。私は高部の姉の栗子です。
釜美さんにちょっと、お話がありまして。ち
ょっと、そこ迄ご同行できますか?」
 改まって、何だろうと思いながら、高部の
姉の後をついて行った。
 校門を出て、直ぐの路地裏の方へ栗子は歩
いて行った。
 釜美は不審に思い、栗子に聞いた。
「ちょっと、栗子さん、何処まで行くんです
か?」
「おほほ。ごめんなさい。もう、少しですか
ら」
と云いながら、釜美を路地裏の更に奥へと
誘導した。
 路地裏の奥まった所に何やら、たむろして
いる若者が三~四人いた。
 見るからに、街のチンピラ風情の男達だっ
た。
 釜美は、こういった男達は見慣れていた
為、自分の身に危険が迫っていることを
敏感に察した。

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