2009年9月19日土曜日

霊感修学旅行(3)

       ・・・

 修学旅行の初日、私達三年二組の一行は宿
に着きました。
 翌日は、先生から、宿へは五時までに戻っ
てくるようにと言われ、いよいよ、プラン通
りに行動することになりました。
 宿は京都駅から程近い所にあります。まず
はプランに沿って、一番近い所にある養源院
から見て廻ることになっています。
「じゃー、養源院にレッツゴー!」
 夏子が嬉々として地図を片手に歩き出しま
した。
「ええと。ここの場所はここだから……。こ
っちよ」夏子は大股で肩で風を切って、四人
の先頭に立って歩いて行きます。
「ちょっと待ってよー」
 私達三人は回りをきょろきょろと見回しな
がら、先頭を歩く夏子について行くのがやっ
とでした。
「こっちよ!」三十三間堂前に着いた私達は
夏子の指し示す門の中に入って行きました。
 養源院に着いた私達は、早速、お堂の中に
入り、本堂廊下にある血天井を見学しました。
 天井はシミだらけで、いかにも血の跡のよ
うに見えます。お坊さんが、長い竹竿で、こ
こが頭で、ここが手とか、指し示して、説明
しています。「きゃっ!あそこに人間の手の
跡が!」幸江が口に手を当てて、天井の一角
を指さしています。確かにそこは、人間の手
の跡のように、生々しく見えます。
 夏子から、事前に聞いていた話を思い出す
と、ぞくぞくしました。
 鳥居元忠とその家臣達が私達の背後に居る
ような気がして、思わず私は背後を振り返っ
てしまいました。勿論、そこには、私達の後
ろに続く、観光客しか居ませんが、背筋がぞ
くぞくします。昔から、霊に感応しやすい体
質の私は、この時、ここに来てしまった事を、
少し後悔しました。
 そして、子供の頃を思い出しました。
 あれは、私が幼稚園生の時でした。私の家
は海岸に近い所にありました。近所のお友達
の哲也君が面白い物があるから、見に行こう
というので、家からちょっと離れた所にある
砂丘の所に行きました。
 哲也君は砂丘に着くと、「ここだよ」とい
って、砂丘の一角を指さしました。
 よく見ると、砂場のあちこちの表面に円錐
形の凹みがあります。
「よく見てろよ」と哲也君はいうと、近くを
歩いている蟻を捕まえて、その円錐形へ落と
しました。蟻は一生懸命、円錐形の所から這
い上がろうとしますが、砂が落ちて滑って、
上がれません。すると、円錐形の底の方から、
二本の爪のような物が出てきて、蟻を捕まえ
てしまいました。蟻はもがくけど、がっちり
と捕まえた爪は蟻を逃しません。
 やがて、蟻は砂の中に曳きづり込まれてし
まいました。
 その様子を、驚いて見ている私に、哲也君
は自慢げに「これはな。蟻地獄っていうん
だ」と教えてくれました。
 そして、蟻を捕まえては、蟻地獄に落とし
ました。私も、蟻を捕まえて、落としてみま
した。残酷な気持ちが子供心に沸きました。
 哲也君は円錐形の砂の底から、小さな虫を
ほじり出しました。
「これが、蟻地獄だよ」といって、手の平に
載せて、見せてくれました。3ミリ程の小さ
な虫はお尻を使って、一生懸命、砂の中にも
ぐろうとしていますが、そこは人間の手の平
の上です。潜れません。
「ほれ、ようこも持ってみろ」といって哲也
君は私の手の平に蟻地獄を載せました。
 蟻地獄のお尻が、もぞもぞと手の平をほじ
るので、とても、くすぐったかった思い出が
あります。
 私は「いやっ!?」といって、蟻地獄を放り
ました。 
 その夜、私は恐ろしい夢を見ました。
 蟻と蟻地獄が私の枕元に立って、恨めしそ
うに、私を見ているのです。枕元に立ってい
る蟻と蟻地獄はとても大きいのです。人間の
子供位の大きさがありました。しかも、蟻も
蟻地獄も、どういう訳か、虫のくせに、しっ
かり、二本足で私の枕元に立っているのです。
 私は「蟻さん、蟻地獄さん、ごめんなさ
い」と言って、布団を頭から被って震えてい
ました。少し経って、そっと、布団の中から
顔を出して、枕元を見てみると、そこには、
もう、蟻も蟻地獄も居ませんでした。
 今でも、妙にリアルに思い出されます。
 あれは、虫の霊が出てきたものと、今でも
思っています。
 ふと、我に返って、みんなを見回すと、夏
子を除いて、みんな一様に、気味の悪そうな
顔をしています。
 夏子だけは例外で、目を輝かせて、お坊さん
の説明を聞いていました。
 
              つづく

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