2009年9月9日水曜日

極道女医『釜美』(11)

 理容子は釜美にどうしたものか、相談に行
った。

 なにやら、理容子が深刻な顔をして、私の
所へ来た。
「釜美先生、205号室の栗ちゃんなんです
けど。お父さんとお母さんに会わせてって云
ってきかないんです」
 いよいよ隠しておく訳にはいかなくなって
きたようだ。釜美は書類を書いていた手を休
め、理容子に言った。
「栗ちゃんの容態が悪い内は本当の事を話さ
ない方が良いと思って嘘を言ったけど……」
「かと言って、先生、何時までも隠しておく
訳には……」
 釜美は一時、思案していたが、意を決する
ように云った。
「そうね。いづれは本当の事を話さなくては
いけないわね。栗ちゃんも大分良くなって来
たようだし、私の方から話します」「栗ちゃ
んを見ていると、可哀想で。毎晩、夢にうな
されているのよ」と理容子が云うと、釜美も
困った様子で「そうね。栗ちゃんの心のケア
が必要ね。わかったわ。理容子」と言うと、
机の上を片付けて、少女の居る病室へと向か
った。

 釜身は少女のいる部屋へ入った。
 ベッドに寝ている少女の診察を終えると、
「はい。大分良くなって来たわね。もう少し
で、動けるようになるわよ」と云って、少女
の頭を撫でた。
 少女は、「先生、お父さんとお母さんに会
わせて」と云った。
 少女の訴えるような表情を見ていると、こ
れ以上隠す事は出来ない。本当の事を話さな
ければと思い、胸が痛んだ。
「あのね。栗ちゃん。今から、先生の言う事
を良く聞いてね」
 両親は事故当日に亡くなって、天国へ行っ
たという事や、少女の身柄は釜美が引き取る
という事を話した。
 少女は釜美の話を聞いていたが、何を言っ
ているのという様子で、途中何度も「うそ!」
と言って釜美の話を信じようとしなかった。
 まだ、小学生の少女には、両親が既にこの
世に居ないという現実を受け止める事は出来
ないようだ。兄弟も親戚もいない栗にとって
は、両親が唯一の肉親だった。
「先生は、栗に、何でそんな嘘をつくの?」
 少女は泣いていた。
 釜美は少女の涙をハンカチで拭ってあげる
と、「ごめんね。先生また来るから」と言っ
て、少女のいる部屋を出た。
 自然に釜美の頬にも涙が伝わった。

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