2009年9月9日水曜日

極道女医『釜美』(5)

 釜美は、こういった男達は見慣れていた為

自分の身に危険が迫っていることを敏感に察
した。

 男達はにやにやしながら、釜美と栗子の方
へ近づいてきた。
 栗子は男達に、「釜美を連れてきたわ」と
云った。
 男達は釜美を見て、下卑た笑いをしながら
釜美の方へ近づいて来た。その中の、頭をモ
ヒカン刈りにした、見るからにヤンキー風の
小男が言った。
 「へっへへへ。ねーちゃん、俺達と楽しい
事して遊ばない?」
 釜美は男達を睨みつけ、ドスの聞いた低い
声で、「あんた達、あたしを誰だと思ってん
の?」と云った。
 男は、「おー!?怖えー!ひゃひゃひゃ!」
と奇妙な笑い声を出すと、「そんな事ぁ、関
係ねーんだよー!」と言い出し様に、釜美に
蹴りを入れて来た。
 釜美は咄嗟にモヒカン男の蹴り出した足首
を掴み、軽く捻ると、男の体は半回転して、
もんどり打って、地面に転がった。
 「やりやがったな!」地面に転がる仲間を
見て、他の男が、バタフライナイフをかざし
て、釜美に向かって来た。
 釜美は両手をぶらりと下げ、体から力を抜
いた体制で男を迎えた。
 合気道五段の釜美は全身の力を抜き、相手
の動きに集中した。
 合気道は相手の力を応用し相手の力に逆ら
わずむしろ逆用し、相手を制することを特徴
とする。
 力の弱い女性でも、例え相手が大男だった
としても、一瞬にして倒す事が可能だ。

 男の突き出す、ナイフを持つ手首を捕まえ
ると、体を捻り、「えいや!」とばかりに自
分の肩に梃子のように男の腕を乗せ、下に引
いた。
 ボキリと鈍い音がした。男の腕が折れたよ
うだ。
「ひー!」腕を折られた男は悲鳴を上げ、そ
の場に蹲ってしまった。
 それを観ていた他の二人は「兄貴!」と言
いながら、腕を折られた男を支えて、立たせ
た。
 腕を折られた男は苦痛に顔を歪めながら、
「くそー!このアマ!覚えてろよ!」と捨て
台詞を吐くと、「おい、引揚げるぞ」と云っ
て、他の男達と共に、足早に逃げるように去
って行った。

 釜美は、逃げて行く男達の背を観ながら、
あの喧嘩慣れしたやり口といい、背の低い男
達といい、鯛弐組の奴らに違いないと思った

 喧嘩の勝敗は数分でついた。
 後ろを振り返ると、栗子はその場に唖然と
して、立ち尽くしていた。
「栗子さん。これはどういう事か説明して頂
戴」と釜美は云った。
 栗子はわなわなと震えながら、「ごめんな
さい!あたし、あたし……」と云うや、泣き
ながら事の次第を説明した。
「ひっく。あたし、弟から美術部での事を聞
いて、それで、釜美さんに復讐しようと思っ
て……。うわーん、ごめんなさーい」
 号泣する栗子を見て、釜美はこれ以上責め
てもしょうがないと思い、「解かったわ。高
部君にあんな事を強要した、あたしがいけな
かったのよ。ごめんなさいね。あたしの方こ
そ許して」と栗子の手を取った。
 栗子は「ごめんなさーい」と更に大声で泣
いた。

 栗子の話しに依ると、あの男達は鯛弐礼子
に頼んで、集めて貰ったようだ。
 鯛弐礼子と謂えば、鯛弐組組長、鯛弐礼二
の娘。三宮女子高等学校の三年生。
 その名前は釜美と同じく、地元では知らな
い者はいなかった。
 やはり、鯛弐組が関わっていた。
 鯛弐組と云えば、暴阿組との抗争が耐えな
い相手。縄張り争いで、何時も、祖父が手を
焼いている相手だ。
 この出来事から、好むと好まざるとに関わ
らず、釜美は鯛弐組の存在を強く意識しだし
た。

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