医師とやくざの親分の二束のワラジを履い
た釜美は多忙を極める日々を送っていた。
病院の仕事が終わると、組の事務所の方へ
顔を出した。
いつもの様に、組事務所の方へ出向くと、
何やら、事務所内は騒々しかった。
「どうしたの?何かあったの?」
近くの者に問いただした。
「親分、鯛弐組の奴らが、うちのシマを次々
と荒らし始めたようなんでさぁ。先程も三宮
金融の舎弟から、連絡があって、鯛弐組の礼
子が来て、事務所をさんざん荒らして暴れ廻
った末、店長の《くま》を連れ去って行った
と」
三宮金融は暴阿組が経営しているサラリー
金融だ。所謂、闇金業者だ。
そこの店長の《くま》は暴阿組の幹部だ。
先代の暴阿観留が亡くなってから勢いづい
た鯛弐組はここで一気に暴阿組を潰してしま
おうと考えているのか、最近は街のあちこち
で鯛弐組と暴阿組の組員のいざこざが起きて
いた。
組員から状況を聞いた釜美は、くまを奪還
すべく、屈強の男達三~四人を選んで、鯛弐
玲子がママをしているバーに出向いた。
釜美は男達を従え、バー『れいこ』がある
、
雑居ビルの前に立っていた。
「さ、行くわよ」と云って、男達と共にエレ
ベータに乗り込み、バー『れいこ』がある5
Fのボタンを押した。
バー『れいこ』の扉の前に立ち、中へ入っ
た。
バーの店員の男が、「いらっしゃいませ」
と声を掛けてきた。
身なりはタキシードを着て、こざっぱりと
しているが、その目を見て、この男は用心棒
だと一見して解かった。
やくざ者独特の目をしていた。
「ママはいる?」と聞くと、男は、「申し訳
ございません。お客様はママのお知り合いの
方ですか?お見受けした所、初めてのお客様
のようですが?」と、慇懃無礼な態度で探り
を入れて来た。
「釜美が来たと言って頂戴」と単刀直入に言
った。
その一言を聞いて、男の表情は一変した。
「少々、お待ちください」と言って、慌てて
、
店の奥の方へ消えた。
間もなく、礼子がバーの店員の男を従えて
やって来た。
「あらぁ?今日は釜美様、直々にお越しです
か?どうなさったんですか?」と云うや、礼
子はおほほと笑った。
「何を惚けて。くまを返して貰うわよ」「あ
ら?ここは動物園じゃ無いので、くまさんは
いませんよ」と笑った。
釜美は礼子の頬をパンッと平手で殴った。
「惚けてんじゃ無いわよ!このあたしを怒ら
せるとどうなるか想い報せてあげるわ!」と
いうや、後ろに控えている男達に店の奥を探
せと合図した。
釜美達が店の奥へ雪崩れ込むと、店内は悲
鳴と怒号の渦が巻いた。
礼子の用心棒の男達が五~六人程、駆けつ
けて来た。
男達はサバイバルナイフをかざして、釜美
に襲い掛かって来た。
釜美が連れて来た男達も応戦している。
二人掛りで釜美に襲い掛かってきた男を、
ひらりとかわし、得意の合気道で一人の男の
二の腕をひょいと掴み、投げ飛ばしてしまっ
た。
残る一人もあっけなく、投げ飛ばされた。
男達が格闘している間に、礼子を見つけて
捕まえた。礼子の腕を捻り、ドスの効いた低
い声で云った。
「さ、礼子。観念しなさい。くまは何処?」
礼子は悲鳴を上げて、くまの居場所を吐い
た。
「痛い!痛い!言うわ!言うから放して」
「最初から、素直に言えば痛い目に会わない
のに」
礼子にくまの居場所まで、案内させた。
くまは店の奥まった一室で、一人、椅子に
縛られていた。
「親分!」
釜美を見て、くまは叫んだ。
「助けに来たわよ」
くまを助けた釜美達一行は、今度は逆に礼
子を誘拐して、暴阿組事務所に引揚げた。
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