2009年9月9日水曜日

極道女医『釜美』(16)

 医師とやくざの親分の二束のワラジを履い
た釜美は多忙を極める日々を送っていた。
 病院の仕事が終わると、組の事務所の方へ
顔を出した。
 いつもの様に、組事務所の方へ出向くと、
何やら、事務所内は騒々しかった。
「どうしたの?何かあったの?」
 近くの者に問いただした。
「親分、鯛弐組の奴らが、うちのシマを次々
と荒らし始めたようなんでさぁ。先程も三宮
金融の舎弟から、連絡があって、鯛弐組の礼
子が来て、事務所をさんざん荒らして暴れ廻
った末、店長の《くま》を連れ去って行った
と」
 三宮金融は暴阿組が経営しているサラリー
金融だ。所謂、闇金業者だ。
 そこの店長の《くま》は暴阿組の幹部だ。

 先代の暴阿観留が亡くなってから勢いづい
た鯛弐組はここで一気に暴阿組を潰してしま
おうと考えているのか、最近は街のあちこち
で鯛弐組と暴阿組の組員のいざこざが起きて
いた。
 組員から状況を聞いた釜美は、くまを奪還
すべく、屈強の男達三~四人を選んで、鯛弐
玲子がママをしているバーに出向いた。
 
 釜美は男達を従え、バー『れいこ』がある

雑居ビルの前に立っていた。
「さ、行くわよ」と云って、男達と共にエレ
ベータに乗り込み、バー『れいこ』がある5
Fのボタンを押した。 
 バー『れいこ』の扉の前に立ち、中へ入っ
た。
 バーの店員の男が、「いらっしゃいませ」
と声を掛けてきた。
 身なりはタキシードを着て、こざっぱりと
しているが、その目を見て、この男は用心棒
だと一見して解かった。
 やくざ者独特の目をしていた。
「ママはいる?」と聞くと、男は、「申し訳
ございません。お客様はママのお知り合いの
方ですか?お見受けした所、初めてのお客様
のようですが?」と、慇懃無礼な態度で探り
を入れて来た。
「釜美が来たと言って頂戴」と単刀直入に言
った。
 その一言を聞いて、男の表情は一変した。
「少々、お待ちください」と言って、慌てて

店の奥の方へ消えた。
 間もなく、礼子がバーの店員の男を従えて
やって来た。
「あらぁ?今日は釜美様、直々にお越しです
か?どうなさったんですか?」と云うや、礼
子はおほほと笑った。
「何を惚けて。くまを返して貰うわよ」「あ
ら?ここは動物園じゃ無いので、くまさんは
いませんよ」と笑った。
 釜美は礼子の頬をパンッと平手で殴った。
「惚けてんじゃ無いわよ!このあたしを怒ら
せるとどうなるか想い報せてあげるわ!」と
いうや、後ろに控えている男達に店の奥を探
せと合図した。
 釜美達が店の奥へ雪崩れ込むと、店内は悲
鳴と怒号の渦が巻いた。
 礼子の用心棒の男達が五~六人程、駆けつ
けて来た。
 男達はサバイバルナイフをかざして、釜美
に襲い掛かって来た。
 釜美が連れて来た男達も応戦している。
 二人掛りで釜美に襲い掛かってきた男を、
ひらりとかわし、得意の合気道で一人の男の
二の腕をひょいと掴み、投げ飛ばしてしまっ
た。
 残る一人もあっけなく、投げ飛ばされた。
 男達が格闘している間に、礼子を見つけて
捕まえた。礼子の腕を捻り、ドスの効いた低
い声で云った。
「さ、礼子。観念しなさい。くまは何処?」
 礼子は悲鳴を上げて、くまの居場所を吐い
た。
「痛い!痛い!言うわ!言うから放して」
「最初から、素直に言えば痛い目に会わない
のに」
 礼子にくまの居場所まで、案内させた。
 くまは店の奥まった一室で、一人、椅子に
縛られていた。
「親分!」
 釜美を見て、くまは叫んだ。
「助けに来たわよ」

 くまを助けた釜美達一行は、今度は逆に礼
子を誘拐して、暴阿組事務所に引揚げた。

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