2009年9月9日水曜日

たっくんの完全なる飼育(8)

 コーヒーを飲みながら、信君と、これから
どうするか話しあった。
 信君と話していると、先ほどのマスターが
何か言いたそうな顔つきで、あたし達のテー
ブルへやって来た。
「そういえば、この前、丁度、二週間ほど前
かなぁ。
 そ、丁度、お客さん達ぐらいの男の子と、
20代後半ぐらいの女の人が一緒に、店に来
ましてね。
 この店もあまり、お客さんが来ないもんで
……。わたしも暇してたんで、妙に気になり
ましてね。それで、憶えてたんですがね……」
 理恵はバッグの中から、たっくんの写真を
取り出して、マスターに見せた。
「この、男の子なんですけど……」
 マスターは写真を受け取って、しげしげと
見た。
「うーん?この男の子だったようにも思うけ
ど?はっきりは憶えてないなぁ」
 写真を理恵に返しながら、残念そうに言った。
「そうですか」
 マスターの曖昧な返事を聞いて、理恵は少
しがっかりした。
 マスターの話の中の男の子がたっくんだと
すると、女の人と一緒に居たと言う事か?
 いったい、その女は誰なんだろう?
 理恵には心当たりが無かった。
「その、女の人って誰なんだろうな?」と、
信君が言った。
「信君も、その女の人に心当たりは無いのね?
誰なんだろう?」
 あたし達は、これ以上、マスターに聞いて
も何も得るものは無いだろうと思い、礼を言っ
って、再び信君と相談を続けた。
 探偵社に頼んでみようとか、自分達で、こ
のあたりの聞き込み調査をしようとか……。 
 信君と話していると、ふと、理恵の頭の中に、
ある人物のことが浮かんだ。
 それは、理恵の友達で、姫路女子短大に通
っている、利美という子から聞いた話だった。
 いつものように、喫茶店に、仲良しの仲間
が集まって、話している時に、その話題は出
た。
 利美の通っている短大には、不思議な少女
がいると言う話だった。
 利美から聞く所に依ると、その少女が、物
に触れると、その物体が持つ記憶とでもいう
べきものが頭の中に流れ込んで来ると言うの
だ。そもそも、物体に記憶があるというのも、
おかしな話だと思った。
 例えば、その物体が個人が愛用している物
であったり、着物であったりと愛着の深い物
であればある程、その物体は強烈に所有者の
記憶を所持しているというのだ。
 海外では、行方不明者の捜索に超能力者を
用いて、実績を上げているという話を、この
前、テレビのバラエティ番組か何かで見たの
を思いだした。
 この事を信君に話した。藁をも縋りたい思
いだったので、早速、利美に電話して、その
女の子に会ってみようと言う事になった。

「もしもし、利美?うん。あたし。あのね、
この前の話で、利美の学校に不思議な女の子
が居るっていう話が出たじゃない?うん。
それでね、その子に会いたいんだけど、会え
るかなぁ?実は、友達が行方不明で……。
え?ここに来るって?うん、判った」
 理恵はケータイを切った。
 信君に、利美が今すぐここへ来てくれるこ
とを伝えた。
 30分ほどして、利美がやって来た。
「こんにちわー」
 利美は挨拶すると、テーブルに着いた。
 理恵は信君のことを利美に紹介すると、早
速、本題に入った。
「それでね。その不思議な少女なんだけど、
会ってくれるかなぁ?」
 利美は眉をしかめて、気むづかしそうに言
った。
「その子なんだけど、ちょっと変人なのよ。
あたしは話したこと無いから判らないんだけ
ど、みんなは気味悪がって、近づかないの」
「名前はなんて、言うの?」
「理容子っていうんだけど、友達から聞いた
話だと、その子、相手の心の中が読めるっ
ていうの?こっちの考えている事を、話して
もいないのに、先走って話してみたり……。
 心の中を見透かされているみたいで……。
 それで、気持ち悪がって、みんな、その子
に近づかないの」
 利美の話を聞いて、理恵はますます、その
子に会いたくなった。
 会って、たっくんの事を頼んでみようと思
った。

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