2009年9月9日水曜日

極道女医『釜美』(8)

 第二章 女医釜美

 あの事件から、鯛弐礼子は釜美に対して、
手出しをしなくなった。
 釜美は後顧の憂い無く、子供の頃に誓った
思いを胸に受験勉強に身を入れた。そして、
念願の三宮医科大学に見事合格した。
 三宮医科大学を卒業した釜美は外科医とし
て、三宮医科大学付属病院に勤務していた。
 釜美は救急医療部門の医師として、多忙を
極める日々を送っていた。
 
 今日も救急車から、ストレッチャーに載っ
た患者が運びこまれた。
 運びこまれたのは交通事故で、怪我を負っ
た、小学生三年生くらいの女の子だった。
 女の子の意識は無かった。
 釜美は他の医療スタッフ達と緊急オペ室に
入った。
 女の子は肋骨が数本と、右足を骨折してい
た。
 救急隊員の話によると、事故当時の現場は
酷い惨状だったようだ。
 ダンプと少女の乗っていたミニバンが正面
衝突し、ダンプの運転手に怪我は無かった。 
ミニバンを運転していた父親と助手席の母親
は即死し、後部座席の少女は意識不明の重体
で運ばれた。

 少女は夢を見ていた。
 辺りはコスモスがいちめんに咲いている、
お花畑だった。
 少女の両親が少女に向かって、二人で手を
振っていた。
 少女の両親はこちらに向かって手を振りな
がら、だんだん遠退いて行く。
「お父さん、お母さん、何処行くの?栗を置
いて行かないで!?」
 少女は両親に向かって叫んだが、両親には
聞こえて無いようだ。だんだん遠退いて行く。
「ねぇ?行っちゃ、やだってばー!」
 やがて、少女の両親は光に包まれて、その
姿形は透き通るように薄くなって、消えてし
まった。
「お父さん!お母さん!」
 少女は必死に叫んで、両親の消えて行った
場所へ駆けて行ったが、そこには何の痕跡も
無かった。
 少女は一人、コスモスが咲き乱れる花畑に
佇み、呟いた。
「お父さん、お母さん、栗を置いて、何処へ
行っちゃったの?」
 

 手術は無事終えた。
 釜美の執刀に依り、少女は一命を取り留め
た。

0 件のコメント:

コメントを投稿