2009年9月22日火曜日

霊感修学旅行(5)

 一日にお寺を三箇所も廻ったので、私は疲
れて、早々に寝てしまいました。
 夜中に、トイレへ行きたくて、目が醒めま
した。普段は朝まで起きないのですが、寝る
前にみんなと話ながら、ジュースをがぶ飲み
したのがいけなかったようです。
 布団から、上半身だけ起き上がると、廊下
の方から、誰かが歩いているような、重い、
軋む音が聞こえました。
 何か、がちゃがちゃとした音も聞こえます。
 昼間の事もあり、怖くなった私は隣で寝て
いる由美子を揺り起こしました。
「ねぇ。由美子~。由美子ってばー」
 由美子は、うーんと唸って、なかなか起き
ようとしません。
「何よー。どうしたの?」やっと、由美子は
目が醒めたようです。
「あのね。廊下の方から音がするの。誰かい
るのかなぁ?」由美子は枕元の腕時計を見て、
「こんな、夜中に誰か起きてるの?」と、目
をこすっています。
「なんかね。重い足音が聞こえたんだけど」
「足音って?」
「うん。なんか、がちゃがちゃと音がして、
誰かが、部屋の外の廊下を歩いている音がし
たんだけど……」
「ええー!? ほんとに?夢でも見たんじゃない
の?」
 ここまで聞いて、やっと、由美子は理解し
たらしい。
「そんな事、無いって。あたし、トイレに行
きたくて、目が醒めたら、聞こえたんだか
ら」と、私がいうと、「ほんとにー?」とい
っている由美子の腕に鳥肌が立っているのが
見えました。
「ねぇ。怖いよー。どうしよー。あたし、ト
イレ行きたいんだけど。由美子、一緒に行こ
うよー」
「しょうが無いわねー。小学生じゃないんだ
から。じゃー、一緒に行ってあげるよ」
 二人は、こわごわと部屋の襖を開けて、部
屋の外の廊下に出てみると、そこには、もち
ろん、誰もいませんでした。
「ほらー。誰もいないじゃん」
「本当に、さっきは音がしたんだってば!」
私は半ば、やけくそ気味に言うと、「はい。
はい。わかりました」と、由美子にはぜん
ぜん取り合って貰えませんでした。
 トイレから部屋に戻ると、由美子も私もす
ぐに布団を被って、また寝てしまいました。
 布団の中で、あの音は何だったのだろう?
と、釈然としない気持ちのまま、再び、眠り
に落ちました。

(あれ?ここは何処?)
 私はいつの間にか、和室の一室にいます。
 周りにはクラスメートが、一人も居ません。
 襖を開け、廊下に出てみると、そこは、泊
まっている旅館の廊下と全然違います。
 廊下の向こうから、どやどやと人の集団が
走ってくるのが見えました。
 それを見た私の心臓は口から飛び出しそう
になりました。
 なんと、その集団は鎧甲冑を着ている武士
の集団でした。
(え!?何?何が起きたの?)
 これは夢だと思いました。しかし、凄くリ
アルな夢なのです。
 武士の集団はどんどん、こちらに近づいて
きます。やがて、武士の集団の先頭を走る男
が、佇んでいる私を発見したようです。
 集団は一旦、立ち止まり、私の出で立ちを
見て、向こうも驚いているようです。
 集団の頭らしき、先頭の男が一人、こちら
に歩いて来ました。
 私は、足ががくがくして、一歩も歩けませ
ん。鎧武者が間近に迫りました。
「そこの女。面妖な。何だ、その、斬ばら髪
は! なんだ、その着物は!敵の間者か!」
 佇んでいる私に向かって、鎧武者は言いま
した。
「あの。あの……」私は言葉が出ません。
「ぬぬ。怪しい奴。このわしが叩き切ってや
る!」鎧武者は腰の刀を抜くと、私に切りつ
けて来ました。
 咄嗟に私は言いました。
「鳥居さん!ごめんなさい!」
「何?なんで、わしの名前を知っている?ま
すます怪しい奴。なんで、わしの名前を知っ
ているんだ?」
 咄嗟に私の口から出た言葉が、鳥居だった
のには、私自身も驚きましたが、向かいの相
手の姓は鳥居だったようです。
(もしかして、前にいる男は鳥居元忠?まさ
かね)
「あのう。鳥居元忠さんですか?」
 私がおずおずと聞くと、「いかにも、拙者
は鳥居元忠だ」と、鎧武者は答えました。
(ええー!?何これ?夢?)
「そちは、何者だ?」と、鳥居元忠が聞くの
で、私は正直に答えました。
「○○高校。三年二組のようこです」
「何?今、なんと言った?益々、面妖な」
(しまった。まずい)
「あ。あたしは桂村のようこです」
 出鱈目をいうと、鳥居元忠はそんな村あっ
たか?という表情で言いました。
「まあ。良い。女こどもを切るのは偲びない
ので、お主は牢屋に入って貰うぞ」そういっ
て、鳥居元忠は部下に命ずると、先に行って
しまいました。
「ああー。ちょっと、待って下さいよー」私
の言葉も空しく、既に鳥居元忠には届かなか
ったようです。
 私は部下に捕まり、牢屋まで連れていかれ、
座敷牢のような処に入れられてしまいました。
(まずい。非常にまずい。ここは戦国時代。
しかも、鳥居元忠が自刃する前の伏見城)
 牢屋に入れられた私は、早く夢から醒めな
いかな、と思いながら、泣きながら寝てしま
いました。


              つづく

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