2009年9月21日月曜日

霊感修学旅行(4)

 夏子だけは例外で、目を輝かせて、お坊さ
んの説明を聞いていました。
「夏子さぁ~。怖くないの?」
 由美子は呆れた顔で夏子に聞きました。
「ぜんぜん。あたし、これ、ずっと見たかっ
たんだ」
「気が知れないわ」由美子は相手にできない
といった様子で、すたすたと先を歩いて行き
ました。
「ああ。待ってよー。もっと、じっくり見よ
うよー」夏子は由美子の後を追って行きまし
た。
「あ、由美子。私も行くー」
 残された私と幸江も由美子の後を追いまし
た。
 養源院を出た私達は、次の目的地の正伝寺
に向かう予定です。
 しかし、実際に血天井を見てしまい、これ
は実際に在った事なのだと思うと、背筋がぞ
くぞくして、私は気乗りがしませんでした。
「ねえー。次、行くのー?これで止めて、ど
こか、甘い物でも食べに行こうよー」私がい
うと、夏子は手を横に振って、「何言ってる
の?だめだめ。予定通り、全部見るの!学校
にも、予定表、提出してるでしょ」
「だってー。怖いんだもん」
 私は泣きそうな顔でいうと、幸江も由美子
も、うんうんと頷いている。
「何、言ってるの。怖い事なんて、なんも無
いよ。さ、行こう」といって、またもや、先
をずんずんと歩いて行きます。
 門を出て、タクシーを捕まえた私達は、次
の目的地の正伝寺に向かいました。
 
 正伝寺に着いた私達は綺麗な庭園を見た後、
本堂の廊下にある血天井を見学しました。
 やはり、ここの天井にも、赤茶けた、おび
ただしい血のシミ跡が付いています。
「怖いよう。ね、ね。早く行こう」
 私は、熱心に見ている夏子を促して、お堂
を出ました。

 後から解った事なのですが。近年の目覚し
い、血液学の発展によって、ここの天井を分
析した結果、シミは紛れも無く、人間の血液
だと判明したそうです。

「次、行くわよ」夏子がいうと、「ねー、や
っぱ、止めようよー」私は夏子の袖を引っ張
りながら、駄々をこねました。
「今日は、あと一つだから」といって、夏子
はタクシーを呼ぶため、お寺の受付の所に行
ってしまいました。
 程なく、タクシーが来て、今日の最後の源
光庵に向かいました。源光庵は正伝寺から近
い所にあり、7~8分で着きました。
 当然ながら、ここも、お堂の廊下の天井は
血天井です。中には、人間の足跡がくっきり
と付いている箇所もあります。
「ひー。あ、あれ。人間の足跡」私が天井を
指さすと、みんな、一斉にその方向を見まし
た。
「本当だ!?」幸江と由美子はそれを見て、引
いています。
 夏子だけは、平気な顔をして見ています。
 あろうことか、夏子はカメラを取り出して、
写真を撮ろうとしています。
「止めなさいよ。夏子」私が止めると、「何
で?」と惚けた顔をしています。
「なんか、写っていたら、怖いじゃん」
「何が?」
「何がって。心霊写真――」
「あはは。大丈夫よ。そんなの写る訳ないじ
ゃん」夏子は豪快に笑うと、私が止めるのも
聞かず、パチパチと天井の写真を撮りました。

 見学を終わった私達はタクシーを呼び、宿
に近い所で降りて、お蕎麦屋さんで食事をし
ました。
「ねえ。明日も行くの?」私が夏子に聞くと、
当然といった顔で、「当然よ。明日は宇治市
にある興聖寺よ。見学した後、駅の近くの甘
味処に行きましょ。老舗のお店で、抹茶アイ
スとか、宇治金時とかあるのよ」
 他の二人は、宇治の甘味処に行くのは、賛
成だったけど、興聖寺はあまり、気乗りがし
ないようでした。

 宿に戻って、その夜。私は恐ろしい夢を見
ました。


              つづく

0 件のコメント:

コメントを投稿