2009年9月9日水曜日

極道女医『釜美』(10)

 少女は病院のベッドの中で夢を見ていた。
 それは悪夢だった。
 少女は同じ夢を毎日何度も何度も繰り返し
見せられた。


 今日は、お父さんとお母さんと栗の三人で
遊園地に遊びに行く日。
 お父さんは何時もお仕事の帰りが遅い。
 栗はお父さんが帰って来るまで、がんばっ
て起きていようとするんだけど、眠くなって、
何時も寝てしまう。
 お父さんは朝早く家を出るので、朝もあま
り、会って無い。
 栗が起きてくる頃には、お父さんは「行っ
てきます」と云って、玄関を出て行く。
 お母さんが「行ってらっしゃい」と云って
お父さんを見送っている。
 土曜日や日曜日もお父さんはお仕事に行く
ことがある。
 つまんない。
 でも、今日は違う。
 三人で遊園地に行く日。
 うれしくて、今日は朝早く目が覚めた。
 お母さんも楽しそうにニコニコしている。
「さあ。用意は出来たか?行くぞ」とお父さ
んが言った。
 荷物を持って、お父さんが先に車の所へ行
った。
 お母さんと栗は後から車に乗った。
 お母さんは助手席で栗は後部座席に乗った。
「さあ、出発だ」とお父さんが云った。
 何処か知らないけで、車は山道を走ってい
る。
 くねくねと曲がりくねった道路で、急な坂
道を降りたり、登ったり。
 霧が出てきた。昼間なのに、なんだか薄暗
い。
 と、そこへ、ダンプカーが道路の真ん中を
はみ出して、こちらへ向かって来る。
 お父さんは「わー!」と云ってハンドルを
切ったけど、間に合わない。
「キャーッ!?」とお母さんの叫び声。
 車がダンプとぶつかった。
 突然、目の前が暗くなった。
 痛い!痛いよー。足が動かない。体が動か
ない。
 お父さんとお母さんが血だらけ。
 いくら呼んでも、返事をしてくれない。
 助けて、助けてよー。
 ぶつかったダンプカーから、おじさんが降
りて来た。
 おろおろしている。
 早く助けてよー。痛いよー。
 また、目の前が暗くなってきた。


 少女はベッドの中で目覚めた。
「お父さん!お母さん!」
 少女は叫んだ。
 少女の叫び声を聞いて、看護士の理容子が
掛け付けた。
「どうしたの?栗ちゃん」
 少女は理容子に必死に頼んだ。
「お父さんとお母さんに会わせて!」
「まだ、栗ちゃんは動けないでしょ。動けるよう
になったら、会わせてあげますからね」
「やだ!今すぐ会わせて!」
 理容子は困った様子で、「じゃー。先生と
相談して来るから、いい子にしてて」と云っ
た。
 少女は「うん」と返事をしておとなしくなっ
た。
 理容子は釜美にどうしたものか、相談に行
った。

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